日本データベース学会

dbjapanメーリングリストアーカイブ(2014年)

[dbjapan] DBSJ Newsletter Vol. 7, No. 4: SoC2014, SIGMOD2014, SIGIR2014


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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2014年8月号 ( Vol. 7, No. 4 )
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梅雨が終わったと思ったと同時に,突然,真夏がやってきました.蝉時雨が
降り注ぎ,青空がまぶしく,外にいると,立っているだけでもじりじりと体
力と気力が失われていきます.熱中症などにならないように,くれぐれも適
切な体調管理を心がけていただければと思います.

本号では,6月に東京にて開催されました,第5回ソーシャルコンピューティ
ングシンポジウム(SoC2014)の開催報告をご寄稿いただきました.国際会議
報告としては,6月下旬に開催されたSIGMOD 2014と7月上旬に開催された
SIGIR 2014についてご寄稿いただきました.これらの会議はデータベースと
情報検索の最高峰の国際会議であり,多くの方の興味を引く内容となってお
ります.

本号ならびにDBSJ Newsletterに対するご意見,あるいは次号以降に期待する
内容についてのご意見がございましたら,news-com [at] dbsj.org までお寄せく
ださい.

                             日本データベース学会 電子広報編集委員会

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目次
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1. SoC2014開催報告
    河合由起子 京都産業大学

2. SIGMOD 2014に参加して
    野宮浩揮 京都工芸繊維大学

3. SIGIR 2014に参加して
    荒木淳 カーネギーメロン大学

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■1■ SoC2014開催報告               河合由起子(京都産業大学 准教授)

第5回ソーシャルコンピューティングシンポジウム(SoC2014)
日時:2014年6月21日(土) 9:00〜18:30 
場所:リコーITソリューションズ株式会社 本社事業所
      晴海アイランド トリトンスクエア オフィスタワーX 42F 大会議室
主催:日本データベース学会(DBSJ)
      電子情報通信学会 データ工学研究専門委員会
協賛:情報処理学会 データベースシステム研究会
      ARG Webインテリジェンスとインタラクション研究会
URL:http://dbsj.org/soc2014/

2014年6月21日土曜日に日本データベース学会(DBSJ)ならびに電子情報通信
学会データ工学研究専門委員会主催,情報処理学会データベースシステム研
究会ならびにARG Webインテリジェンスとインタラクション研究会協賛,リク
ルートテクノロジーズならびにMicrosoft Researchの協賛企業のもと,第5回
ソーシャルコンピューティングシンポジウム(SoC2014)が開催されました.

開催場所は,リコーITソリューソンズ株式会社本社事業所で,晴海アイラン
ドトリトンスクエアの42階からは,順に東京タワー,スカイツリー,レンボ
ーブリッジが望め首都を一望できる,まさに最新研究技術の動向をシェアす
る本シンポジウムにふさわしい会場でした.参加者数は132名となり,一時立
ち見となりご不便をおかけしましたが,ソーシャルコンピューティングへの
意識・興味の高さが伺われ,また,活発な議論につながりました.

今回のSoCでは,ソーシャルコンピューティングの最新の研究ならびに開発の
多様な動向を研究者,技術者,学生間でシェアすることを目的に,魅力的な
4件の招待講演とともに,一般発表としてロング発表と萌芽的研究発表のショ
ート発表(16件)にてプログラムを構成しました.本稿では,大変好評でし
た招待講演の概要についてお伝えしたいと思います.

中谷秀洋氏(サイボウズ・ラボ株式会社)による「ソーシャルメディアの多
言語判定」のご講演では,ソーシャルメディアに多く見られるノイズが多い
短い文章に対して従来手法では実用的な言語判定精度が出ないという問題点
に対して,精度を実現する言語判定手法の概要と,それを実現する中で得ら
れた言語利用に関する様々な知見について最新技術開発者・研究者という立
場にてご紹介頂きました.

倉又俊夫氏(日本放送協会)による「テレビとソーシャルメディア」のご講
演では,テレビ番組でのソーシャルメディアの活用に関して,実際にソーシ
ャルメディアを活用している事例を多数紹介頂きながら,その可能性と課題
について,テレビ放送局側技術者という立場にて,新たな知見や今後につい
て,ご興味深いご講演を頂きました.

安宅和人氏(ヤフー株式会社CSO[チーフストラテジーオフィサー])による
「Yahoo!JAPANでのビッグデータを活用した選挙結果・経済指標予測」のご講
演では,月間560億ページビューを検索,ニュース,知恵袋,コマースなど100
以上のサービスから生み出すYahoo!において,これらのデータがどのように
活用されているのか,その概要と内閣府が毎月算出している景気動向一致指
数,昨年7月の参議院選挙における当落をほぼ的中させたその舞台裏を責任者
の視点でご紹介頂きました.

福原美三氏(明治大学)による「世界のMOOCと日本のMOOC―現状と将来展望―」
のご講演では,2012年に米国から始まったMOOCが2014年には全世界の学習者
数を1000万人を越すまでの勢いに至った経緯を多様に交わる各国の背景を基
にご紹介頂き,また2014年4月に始まった日本発の日本語MOOCの配信について
もご紹介頂き,世界と日本におけるMOOCの現状と将来展望についてご紹介頂
くことができました.

クロージングではSoC2014学生奨励賞(4件)の授賞式を行い,無事閉会致し
ました.

1日ではありましたが大変充実した実りあるイベントとなりましたのも,ご尽
力頂きました実行委員そして参加者の皆様のお陰です.共同実行委員長一同,
改めてお礼申し上げます.

(河合由起子  SoC2014共同実行委員長
              京都産業大学コンピュータ理工学部 准教授)

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■2■ SIGMOD 2014に参加して         野宮浩揮(京都工芸繊維大学 助教)

2014年6月22日から27日にかけて,2014 ACM SIGMOD/PODS Conferenceがアメ
リカ合衆国ユタ州のSnowbirdにて開催されました.Snowbirdはソルトレイク
シティの南東にある,標高2000メートルを超える高地にあるリゾート地です.
冬場にはスキーで賑わうそうですが,会議の開催期間中は会場周辺に雪はな
く,過ごしやすい天候でした.

今年のSIGMODでは,研究論文の投稿件数が421件,採択率は25.4%となってお
り,昨年と比べていずれも大きく増加したため,研究論文の発表件数が昨年
比4割増しとなる,大変密度の高い内容となっておりました.

今年はデータ分析に関連する研究が比較的多かったように思います.SIGMOD
のベストペーパー“Materialization Optimizations for Feature Selection
Workloads”では,データ分析をデータの管理・運用における重要なトピック
の一つと捉え,データ分析における最もクリティカルな要素の一つとして特
徴選択を挙げて,多くの特徴量を持つ大量のデータから,効率的に特徴選択
を行うことに焦点を当てています.特徴選択は,今後ますます量や複雑性が
増していくことが予想される様々なデータを効率的に分析していく上で,一
つの可能性を示しているように感じました.また,SIGMODのインダストリパ
ネルでは,ビッグデータバブルに関する議論が行われました.近年のビッグ
データの時代の到来によるデータベース技術への投資の増大は,産業界にも
多くの利益をもたらしていますが,これはビッグデータバブルであり,いず
れは崩壊するのではとの見方もあります.また,急速に増大していくデータ
に対応するため,データの管理・分析・運用の方法にも変遷や多様化がみら
れます.このような現状にあって,これからのデータマネジメントのあり方
を考える上で,データベース研究者のなすべきことについて,様々な観点か
ら活発な議論が行われ,大変興味深く感じました.

今回,私はACM SIGMOD日本支部による国際会議派遣のお話をいただきまして,
本会議に参加させていただきました.本会議では,上記のインダストリパネ
ルの他にも,多くの研究セッション,インダストリセッションや,基調講演,
研究パネルなど多数の興味深い発表があり,非常に有意義な時間を過ごすこ
とができました.このような大変貴重な機会を与えてくださいましたACM
SIGMOD日本支部の皆様に心より感謝いたします.

(野宮浩揮  京都工芸繊維大学 工芸科学研究科 助教)

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■3■ SIGIR 2014に参加して  荒木淳(カーネギーメロン大学 博士候補生)

2014年7月6日(日)から7月11日(金)までの日程でオーストラリアのゴール
ドコーストで国際会議SIGIR 2014が開催されました.会場はGold Coast
Convention and Exhibition Centreでした.ゴールドコーストは,オースト
ラリアの東海岸に位置する同国最大の観光保養地として知られています.こ
の時期は冬でしたが,それでも気候は温暖で,最高気温が22℃程度,最低気
温が8℃程度でした.しかしながら,オゾンホールの影響もあるのか筆者には
日差しが強く感じられ,日中はほとんど会場内にいたものの,念のため日焼
け止めを利用していました.

SIGIRは情報検索(IR)の分野のトップカンファレンスであり,1978年に開催
されて以来,今回で37回目を迎えました.筆者の専門は自然言語処理(NLP)
であり,NLPの分野の国際会議には参加したことがありましたが,SIGIRに参
加するのは初めてでした.NLPにおけるトップカンファレンスであるACLにも
まだ一回しか参加したことがないのですが,ACLとSIGIRの両方に参加した経
験から感じた両者の違いについて三点ほど触れようと思います.

まず,論文の採択率についてです.今回のSIGIRではfull paperが 82/387
(21.2%),short paperが 104/263(39.5%) でした.一方,今年のACL
(ACL 2014)では 146/572(25.5%),short paperが 139/551(25.2%)でし
た.このことから,SIGIRの方がshort paperは採択されやすいという傾向が
見えます.実際に,今回筆者が発表した論文もshort paperで,ある授業の中
で取り組んだ研究に関するものでした.

次に,研究で用いられる評価手法についてです.両会議で発表される研究で
は,確立された評価指標を用いて提案手法を定量的に評価する点は共通して
いますし,評価指標自体も研究テーマになり得えます.ただ,SIGIRの方が,
検索エンジンという既に世に普及した実装が存在することもあって,例えば
ユーザーや時間軸の視点からの評価のように,心理学的観点も含めたより多
様で実際的な評価手法が多い印象を受けました.

最後に,賞関連です.ACLにもBest Paper AwardとLifetime Achievementとい
う賞はありますが,SIGIRでは今年からTest of Time Awardという賞を取り入
れ,2002年から2004年の中でも最も優れた研究が表彰されました.企業から
のスポンサーシップも比較的多いと思います.学生に対する参加費援助
(travel grant)についても,どの程度の割合の学生がどの程度の支援を受
けたのかという全体的な統計は分かりませんが,SIGIRの方が支援が手厚いよ
うに思われます.筆者は今年SIGIRからSIGIR Student Travel Grantという参
加費援助を受けました.筆者はアメリカからの参加で渡航費が非常に高かっ
たのですが,学会登録費や宿泊費などを含めて総額の半分くらいを支援して
いただきました.

SIGIRは長い年月を経て実用面での貢献にも寄与しながら研究コミュニティを
発展させたため,研究分野に対する自負のようなものと若手研究者の挑戦を
奨励するような雰囲気があります.これは以前のNewsletterのSIGIR 2013参
加報告で言われていたことであり,上記のSIGIRとACLの違いだけでなく,
banquetやstudent lunchなどのイベントでシニアな研究者の方々とお話しを
する中でも感じたことです.ビジネスミーティングではSIGIR 2015はサンテ
ィアゴ(チリ),SIGIR 2016はピサ(イタリア),SIGIR 2017は東京で開催
されるとの発表がありました.若手の皆さんも積極的に挑戦してみてはいか
がでしょうか.

(荒木淳  カーネギーメロン大学
              コンピュータサイエンス学部言語技術研究所 博士候補生)

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