日本データベース学会

dbjapanメーリングリストアーカイブ(2016年)

[dbjapan] DBSJ Newsletter Vol. 9, No. 3: SoC2017, SIGMOD 2016, SIGIR 2016, IJCAI 2016, ICWSM 2016, SIGIR 2017に向けて

  • To: dbjapan [at] dbsj.org
  • Subject: [dbjapan] DBSJ Newsletter Vol. 9, No. 3: SoC2017, SIGMOD 2016, SIGIR 2016, IJCAI 2016, ICWSM 2016, SIGIR 2017に向けて
  • From: Hisashi Miyamori <miya [at] cse.kyoto-su.ac.jp>
  • Date: Mon, 1 Aug 2016 10:10:09 +0900

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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2016年8月号 ( Vol. 9, No. 3 )
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ようやく梅雨も明け,蝉の大合唱が本格的な夏を感じさせる季節となりました.
会員の皆様におかれては,益々ご活躍のことと存じます.真夏日,猛暑日が珍し
くない今日この頃ですが,体調管理にはくれぐれも注意して乗り切りたいものです.

さて,本号では,6月に東京で開催されました第7回ソーシャルコンピューティン
グシンポジウム(SoC2017)の開催報告をはじめ,国際会議報告として,それぞれ
データベース,情報検索,人工知能,及び,Webとソーシャルメディアのトップ
カンファレンスであるSIGMOD 2016,SIGIR 2016,IJCAI 2016,ICWSM 2016につ
いてご寄稿いただきました.それぞれの会議の特徴や最近の傾向,トップカン
ファレンスへの投稿のメリット,論文採択に至るまでの工夫など,皆様のご参考
になれば幸いです.

さらに,本号から2017年8月号まで,日本で初めての開催となるSIGIR 2017に向
けた7回分の連載が始まります.この連載では,SIGIR2017組織委員会や関係者の
皆様から,論文執筆Tipsや多様な参加の仕方など,SIGIRの魅力を多面的にご紹
介いただきます.初回の本号では,SIGIRの概要及び,現在どういった論文が評
価され,またどのような発表形式があるのかなどについてご紹介いただきまし
た.ぜひご一読頂き,今後の連載にもご期待ください.

SIGIR 2017に向けた連載予定

1. 2016年 8月号 ACM SIGIR Conferenceとは? (加藤誠 京都大学)
2. 2016年10月号 SIGIR 2017 論文執筆 Tips  (上保秀夫 筑波大学)
3. 2016年12月号 企業スポンサー募集案内   (加藤恒昭 東京大学)
4. 2017年 2月号 DEIM でのイベント告知 (Workshop 投稿告知)
                      (大島裕明 京都大学)
5. 2017年 4月号 SIGIR 2017 ボランティア募集 (欅惇志 東京工業大学)
6. 2017年 6月号 SIGIR 2017 参加募集     (村上晴美 大阪市立大学)
7. 2017年 8月号 SIGIR 2017 アナウンスメント (高久雅生 筑波大学,
                     江草由佳 国立教育政策研究所)

本号ならびにDBSJ Newsletterに対するご意見あるいは次号以降に期待する内容
についてのご意見がございましたら news-com [at] dbsj.org までお寄せください.

                                日本データベース学会 電子広報編集委員会

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目次
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1.ソーシャルコンピューティングシンポジウム開催報告
  莊司慶行(首都大学東京),横山昌平(静岡大学),大塚真吾(神奈川工科大学)

2.ACM SIGMOD 2016 発表・参加報告
  肖川,石川佳治(名古屋大学)

3.SIGIR 2016に参加して
  梅本和俊 (東京大学/情報通信研究機構)

4.ACM SIGIR Conferenceとは?
  ―主なトピック・注目されているトピック・発表形式―
  加藤誠 (京都大学)

5.IJCAI 2016 に参加して
  岩成達哉 (東京大学)

6.ICWSM 2016参加報告
  小林亮太(国立情報学研究所)

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■1■ ソーシャルコンピューティングシンポジウム開催報告
   莊司慶行(首都大学東京)、横山昌平(静岡大学)、大塚真吾(神奈川工科大学)

今年で第7回を数えるソーシャルコンピューティングシンポジウムは、6月18日
(土)に二子玉川駅にほど近い『楽天クリムゾンハウス』で開催されました。5件
の招待講演と6件一般発表が行われ、週末の、しかも9時半から18時半までという
長丁場にも関わらず、150名を超える参加者を得まして、盛況のうちに幕を閉じ
ました。今回、会場を快くお貸し頂きました楽天株式会社は昨年、品川から二子
玉川の『楽天クリムゾンハウス』に本社を移転しました。今回SoCを開催した
真新しい会議室は、普段は記者会見等に利用されている部屋との事で、音響・ビ
ジュアル等の設備も素晴らしく、一般発表・招待講演共に、発表とその後の質疑
応答が大変盛り上がりました。

SoCでは学生の優秀な発表に対して学生奨励賞を授与しています。厳正な審査の
上、今年度は以下の二名の発表者を表彰しました。おめでとうございます。

Yanhan Liang様(Waseda Univ.)
『Sentiment Analysis on Publicly-Posted SNS Contents』

吉田朋史様(工学院大)
『商品レビューの極性分析に基づく特徴語抽出手法の評価』

さて、数ある研究会・フォーラム・シンポジウムの中で、SoCの特徴と言えば、
魅力的な講師の方を多数お招きした招待講演です。実行委員として広報関係を担
当していただいた首都大学東京の莊司先生に、今回の5件の招待講演に関してレ
ポートしていただきます。

池宮伸次氏(ヤフー株式会社)による「検索キーワードやつぶやき分析から見え
る、日本人の感情とライフスタイル」のご講演では、大規模なユーザの検索クエ
リログやTwitterのデータを実際にどう分析し活用しているかについてお話しい
ただきました。2013年に行われたクエリログを用いた選挙結果の予測の事例や、
位置情報・日時情報とクエリを組み合わせて分析することによるトレンド抽出、
大規模なTweetの分析事例などについてご紹介いただきました。

金谷朋子氏(株式会社リクルートテクノロジーズ)による「リクルート式サービ
ス開発 カスタマーの本音×人工知能」のご講演では、リクルートテクノロ
ジーズ社が開発し運営しているリサーチプラットフォーム「ココロバ」の事例を
中心に、ユーザの集め方、意見の引き出し方、分析の仕方についてご説明いただ
きました。 AIによるデータの分析の強化だけでなく、対面インタビューによる
質の高いデータ取集の継続化も重要であるというご指摘が大変興味深かったです。

三條正裕氏(楽天技術研究所)による「体験をリッチにするネットとリアル」の
ご講演では、インターネット上のバーチャルなショッピングモールである楽天と
物理的な店舗を結び付け、双方のより高度な活用を目指す取り組みと、そこに使
われる技術についてご紹介いただきました。ショッピングサイトでの人気を AR
を用いて現実世界で仮想的に表現する「 hitoke」や、オンラインの商品を店頭
で閲覧・購入可能にする「楽天 WallSHOP」など、実際の技術的・ビジネス的課
題についてお話しいただきました。

蔵田武志氏(産業技術総合研究所)による「測って図る 〜接客おもてなしから
物流ピッキングまで〜」のご講演では、 IoT時代の地理空間情報技術の研究とそ
の活用について、多くの事例を交えながらご説明いただきました。リアルタイム
での 3Dスキャン技術や、仮想現実インタフェース「ドールハウス VR」などの技
術的な話に加えて、センサを用いた物流ドライバーの計測・評価の事例や、居酒
屋スタッフに位置センサを付けて業務を改善した事例など、その実際の活用まで
お話を伺うことができました。

濱田健作氏((株)アイスタイル( @cosme))による「レビューから利用者
ニーズの変化を探る  -15年間のコスメレビューDB-」のご講演では、大手化粧
品レビューサイトであるアットコスメにおけるレビューデータのもつ特徴と、
データの実際の活用についてご説明いただきました。実店舗を構えて投稿レ
ビューには表れないデータを収集するお話や、季節や広告がレビューやビヘイビ
アにどう影響を与えるかの事例、文章的特徴の時代による移り変わりなど、実際
に長期間運営されているサービスならではのお話を多数ご紹介いただきました。

(莊司慶行 首都大学東京システムデザイン学科/学域 特任助教)
(横山昌平 静岡大学情報学部 准教授)
(大塚真吾 神奈川工科大学情報学部 准教授)

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■2■ ACM SIGMOD 2016 発表・参加報告
                                             肖川、石川佳治(名古屋大学)

■ はじめに ■

今年の SIGMOD での発表・参加について報告します。作文は主に肖が担当し、文
章の補足と日本語の手直しを石川が担当しました。肖 川(Chuan XIAO)先生を
簡単に紹介しておきますと、中国 東北大学を卒業後、オーストラリアニューサ
ウスウェールズ大学でPhDを取得し、2011年10月から名大 研究員、2014年3月か
ら名大 高等研究院の特任助教(現在に至る)です。SIGMOD, VLDB, ICDE, WWW,
TKDE, TODS, VLDBJなど、トップレベルの国際会議・ジャーナルの成果を持つ若
手研究者です。
https://sites.google.com/site/chuanxiao1983/
(以上、担当は石川)

■ 会議の概要 ■

ACM SIGMOD 2016国際会議は、米国サンフランシスコにて6月26日から7月1日の日
程で開催されました。例年通り、PODS会議と連続開催でした。今回は過去最多の
1,000人以上の参加者がありましたが、特にシリコンバレーの企業からが多
かったようです。研究論文は、昨年より14件多い120件が採録されました。結果
として発表時間が短縮され、1論文の発表時間はわずか15分でした。ただし、口
頭発表に加えポスター発表も行いました。なお、今回は研究論文とインダストリ
アル論文が同じセッションで発表する形でした。

SIGMOD 2016には、全体で22のセッションがありました。そのうちの3つがグラフ
データベース関係で、このトピックが依然としてデータベース分野で人気がある
ことが分かります。興味深いトレンドとしては、機械学習に関連する論文がかな
り見られ、1つのセッションは機械学習に関するものでした。また、Jeff
Dean(Google)によるディープラーニングに関する基調講演も機械学習に関係し
ていました。

会場はサンフランシスコのダウンタウンエリアに位置しており、海まで歩いて数
分という場所でした。そのため、海を眺めてくつろぐこともできました。天候は
会議の間良好でしたが、日本に比べるとかなり涼しく、気温は12度から22度の間
でした。

■ 私たちの論文について ■

私たちの論文

  Pei Wang, Chuan Xiao, Jianbin Qin, Wei Wang, Xiaoyang Zhang,
  Yoshiharu Ishikawa: Local Similarity Search for Unstructured Text,
  ACM SIGMOD 2016.

は、名古屋大学とオーストラリア ニューサウスウェールズ大の共同の論文で、
筆頭著者は名古屋大学の博士前期課程を今年3月に修了した王沛(Pei WANG)さ
んです。なお、彼女はこの秋からカナダのサイモンフレーザー大学のPhD
studentになります。この研究の最も重要な応用は、剽窃およびテキスト再利用
の検出です。既存の剽窃検出のアプローチは、一般に単語の順序の変更、文章の
構成の変更などに敏感です。これに対し、私たちは、マイナーな違いを持つ類似
したテキストセグメントを見つけるための局所類似探索(localsimilarity
search)の概念を提案しました。

上記の発表に加え、ACM TODS に採録された論文

  Xiaoling Zhou, Jianbin Qin, Chuan Xiao, Wei Wang, Xuemin Lin,
  Yoshiharu Ishikawa, BEVA: An Efficient Query Processing Algorithm
  for Error Tolerant Autocompletion, ACM Transactions on Database
  Systems (TODS), 41(1), 2016.

について、SIGMOD からの招待に基づき、ポスター発表を行いました。問合せの
補完(autocompletion)は、ユーザのタイピングに応じてその残りを予測すると
いうものです。特にモバイルアプリケーションではタイピングは厄介であり、誤
りも多く含まれます。そこで、スペリングに誤りがある場合でも対応できる誤り
に寛容で(error-tolerant)、かつ効率的な手法を提案しました。

■ SIGMOD への投稿について ■

多くの国際会議・ジャーナルと異なり、SIGMOD や TODS では double-blindの査
読方式をとっており、査読者は著者が誰であるかが分かりません.著者の匿名性
を保つため、論文執筆では注意が必要です。著者名・所属を消すだけでなく、研
究資金等への謝辞も含めないようにします。また、自身の研究を不適切に参照す
ることで著者が推測できてしまうことも避けないといけません。

== 余談 ==
なお、SIGMOD に double-blind 方式を入れた影響については、

  Samuel Madden and David DeWitt, Impact of Double-Blind Reviewing on
  SIGMOD Publication Rates, ACM SIGMOD Record, 35(2), 2006.

に分析があります。ここでの「あまり影響がない」という結論に対し、

  Anthony K. H. Tung, Impact of Double Blind Reviewing on SIGMOD
  Publication: A More Detail Analysis.
  http://www.comp.nus.edu.sg/~atung/DB_detail.pdf

で反論がなされています。
== 余談終わり ==

現在の SIGMOD の論文査読プロセスはやや複雑です。まず、投稿・査読期間が2
つある、2ラウンド方式を採用しています。投稿数は2ラウンド目の投稿の方が多
いようです。なお、1ラウンド目でリジェクトになった論文は2ラウンド目には投
稿できません。また、それぞれのラウンドが、

  投稿 → 結果通知(accept/revise/reject)→ 再投稿(reviseの場合)
  → 再投稿に対する通知(accept/reject)

という、さらに2ラウンドからなります。いきなり採録に至る論文はわずかで、
また、およそ2/3の論文はリジェクトされます。再投稿では、論文のおよそ1/3が
リジェクトされます。

データベース分野で最も権威ある SIGMOD で採録されるには、対象となる問題が
重要であり、かつ幅広い応用があることが求められます。直接的なアイデアでも
よいですが、十分に深みのある手法を探求しなければなりません。SIGMODの査読
では、査読者はその論文の最も弱いところを突いてきます。もし明らかに弱い点
があるならば、リジェクトされる可能性は高くなります。そこで、投稿を行う前
に、査読者からどのような質問が来るかを検討し、前もってそれらを解決してお
くべきです。ページ制限を気にする必要はありません。SIGMODについては、論文
12ページに加え、4ページの付録をつけることができます。付録に重要な補足・
注記や、追加の実験報告を入れることができます。

若手の研究者の皆さんには、トップレベルの国際会議やジャーナルに投稿するこ
とを強く勧めます。査読と改訂のプロセスでは、この分野でトップの研究者とコ
ミュニケーションできます。2番手、3番手の会議やジャーナルでは、PCメンバの
学生が査読することもよく見られますが、SIGMOD や TODS ではトップレベルの
PCメンバ自身が注意深く査読を行います。高いレベルのコメントをもらうこと
で、エキスパートが何に関心を持ち何を期待しているかが分かります。彼らは、
論文の質をさらに良くすることを積極的に助けてくれます。

■ SIGMOD 2017について ■

SIGMOD 2017 (http://www.sigmod2017.org/) は、米国南東部のノースカロライ
ナ州の州都であるRaleighで2017年5月に開催されます。

残念ながら第1ラウンドの査読については投稿締切(7月22日)を過ぎてしまいま
したが、第2ラウンドが残っています。ぜひとも投稿して参加しましょう!

November 4, 2016:   Abstract submission
November 11, 2016:  Paper submission
January 27, 2017:   Notification of accept/revise/reject
February 22, 2017:  Revised submission
March  9, 2017:     Notification of acceptance or rejection
March 19, 2017:     Camera-ready deadline

(肖川 名古屋大学高等研究院 特任助教)
(石川佳治 名古屋大学大学院情報科学研究科 教授)

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■3■ SIGIR 2016に参加して      梅本和俊 (東京大学/情報通信研究機構)

2016年7月17日から21日までイタリアのピサで開催されたSIGIR 2016(the 39th
International ACM SIGIR Conference on Research and Development in
Information Retrieval)に参加してきました.SIGIRは情報検索分野における最
高峰の国際会議であり,39回目の開催となる今回も,フルペーパーの採択数が
341投稿中62件(18%),ショートペーパーの採択数が339投稿中104件(31%)
と,相変わらず高い競争率でした.アメリカや中国の研究機関・企業による論文
が半数程度を占めていたそうです.実際に,GoogleやMicrosoft,Yahoo!,Baidu
など,検索エンジンを有する企業による発表をよく見受けました.参加登録者数
は566人であり,そのうち175人(31%)が学生でした.会議で発表をした学生の
多くが参加費や旅費の助成を受けていて,サポートが行き届いているなと感じま
した.

一口に情報検索と言っても,検索モデルや質問応答,推薦システム,行動分析,
評価尺度など,さまざまな切り口があり,それぞれの研究領域における第一線の
研究者がSIGIR 2016に参加していました.本会議では,合計21個の多様な
セッションにおいてフルペーパーの研究内容が口頭で発表されていました.今年
のbest paperは,University of GlasgowのYashar Moshfeghiらによる
「Understanding Information Need: An fMRI Study」でした.検索を引き起こ
す情報要求という概念と人間の脳活動との間の関係性を,functional Magnetic
Resonance Imaging(fMRI)を用いて神経心理学的な見地から解明することに取
り組んだ点が高く評価されたのだと思います.ちなみに,Twitterで#SIGIR2016
というハッシュタグで検索すると,会議の雰囲気などがなんとなく分かるのでお
すすめです.

私は,「ScentBar: A Query Suggestion Interface Visualizing the Amount of
Missed Relevant Information for Intrinsically Diverse Search」という題目
で発表しました.これは,検索結果中に存在する調べ切れていない情報の量を可
視化するクエリ推薦インタフェースに関する研究です.実は,本論文はWWW 2016
でreject判定になった内容をブラッシュアップしたものです.SIGIRの査読で
は,問題の新規性や重要性だけでなく,実験設定の妥当性や実験結果の再現可能
性など評価にもかなり重点が置かれます.WWW 2016の査読で「good research
problem; weak evaluation.」と指摘されたこともあり,SIGIR 2016への論文投
稿前には,評価項目の追加や,implicationsとlimitationsに関する綿密な議論
などに十分な時間を費やしました.それが功を奏したのか,SIGIR 2016の査読で
はポジティブな評価を受け,採択されるに至りました.博士課程の最後に取り組
んだ研究の成果を専門分野のトップカンファレンスで発表でき,それに対して聴
衆から有意義なフィードバックを頂けたことを大変嬉しく思います.

今回のSIGIRの印象として,情報検索分野においてもdeep learningの流れが本格
的にやってきつつあるように感じました.初日には,Huawei Technologiesの
Noah's Ark Labの所長であるHang Liによるチュートリアル「Deep Learning for
Information Retrieval」が開催されており,多くの参加者がその内容を聴講し
ていました.Li所長は,画像検索におけるテキストと画像のマッチングや質問応
答における応答の自動生成といったIRの難しい問題に対するdeep learningの貢
献を,最新の研究事例を踏まえて説明していました.また,本会議1日目(18
日)には,IRの教科書「Introduction to Information Retrieval」の著者とし
ても有名なStanford UniversityのChristopher Manning教授によるキーノート
「Understanding Human Language: Can NLP and Deep Learning Help?」が開催
されました.Manning教授は,「音声認識やコンピュータビジョン,自然言語処
理がそうであったように,この先の数年間にわたってdeep learningがSIGIRを席
巻するだろう」という言葉でキーノートを締めくくっていました.他にも,採択
された論文の中にはneuralやembeddingといったキーワードをタイトルに含むも
のが散見されましたし,本会議後の21日には「Workshop on Neural Information
Retrieval」というワークショップも開催されていたようです.

記念すべき40回目となるSIGIR 2017は,なんと初めて日本で開催されます.是非
とも投稿・参加をご検討下さい.

(梅本和俊 東京大学生産技術研究所 特任助教/情報通信研究機構ソーシャル
ビッグデータ研究連携センター 研究員)

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■4■ ACM SIGIR Conferenceとは?
       ―主なトピック・注目されているトピック・発表形式―
                                                    加藤誠 (京都大学)

 本稿では,ACM SIGIR Conference(以下,SIGIR)ではどのような論文が投稿
されており,どのような論文が評価されているのか,また,SIGIRではどのよう
な発表形式があるのかを紹介します.これまでSIGIRへの投稿を検討されたこと
のない方が,2017年8月,東京にて開催されるSIGIR 2017
(http://sigir.org/sigir2017/)への論文投稿を僅かでもご検討くだされば幸い
です.

I. SIGIRの主なトピック
 SIGIRは情報検索に関するトップカンファレンスですが,この「情報検索」が
示す範囲について,多くの方が過小に評価されているように思われます.情報検
索の父,Saltonによると情報検索という分野は以下のように定義されていま
す:“Information retrieval is a field concerned with the structure,
analysis, organization, storage, searching, and retrieval of
information.” (Salton, 1968).この定義と現状に基づいて主張したいのは,
1) 情報検索は「文書」検索だけではない,2) 情報検索はAnalysisと
Organizationが含まれる,3) 情報検索は「検索」だけではない,という点です.

1) 情報検索は「文書」検索だけではない.
 情報検索というと「文書」検索の印象が強いかもしれませんが,画像や映像は
もちろん,ニュースや商品,音楽,数式,(質問に対する)回答なども検索対象
です.SIGIR 2016でも「Speech and Conversation Systems」,「Music and
math」,「Microblogs」,「Privacy, advertising, and products」,
「Events」,「Image and multimodal search」などのセッションがあり,多く
が文書以外を対象としています.

2) 情報検索はAnalysisとOrganizationが含まれる.
 自然言語処理やデータマイニング,機械学習等の学会にて発表される機会が多
いかもしれませんが,感情分析,評判分析,リンク解析,分類,クラスタリング
等もSIGIRの主なトピックとなっています.

3) 情報検索は「検索」だけではない.
 おかしな表現ではありますが,クエリを入れて検索結果リストを得るような,
いわゆる「検索」にSIGIRは閉じていません.推薦や質問応答も,それぞれ1
セッション割り当てられるような大きなトピックとなっています.また,Croft
ら(Croft et al., 2010) が言うように「情報要求」や「評価」は情報検索の三
大トピックとして挙げられるほどの大きなトピックであり,以降で述べるように
これらもSIGIRで大きな存在感を示しています.

II. SIGIRで注目されているトピック
 これまでどのようなトピックがSIGIRで注目を集めてきたのか.ここでは近年
のSIGIRにおけるベストペーパーを挙げその傾向について紹介します.

2016年: Moshfeghi et al. Understanding Information Need: an fMRI Study
    (ユーザ分析)
2015年: Lucchese et al. QuickScorer: A Fast Algorithm to Rank Documents
    withAdditive Ensembles of Regression Trees (ランキングの高速化)
2014年: Ottaviano et al. Partitioned Elias-Fano Indexes (索引の圧縮)
2013年: White. Beliefs and Biases in Web Search (ユーザ行動分析)
2012年: Smucker and Clarke. Time-based Calibration of Effectiveness
    Measures(評価指標)
2011年: Ageev et al. Find It If You Can: A Game for Modeling Different
    Types of Web Search Success Using Interaction Data (ゲーミ
    フィケーションとユーザ行動分析)
2010年: White and Huang. Assessing the Scenic Route: Measuring the Value
    of Search Trails in Web Logs (ユーザ行動分析)

 ここ7年間のベストペーパーから見られる傾向として,『ユーザ指向』である
ことが挙げられます.7本中4本が検索ユーザ自身の分析に主眼をおいた研究であ
り,手法よりもユーザ実験から得られる知見に対して大きな評価を得ている研究
が多く見受けられます.また,2012年のベストペーパーが評価指標,それも,
ユーザの検索結果閲覧行動の分析を含む研究であることも興味深い点です.やや
個人的な見解となりますが,手法だけでなく「ユーザ」自身も研究対象となるこ
とが,他の類似するカンファレンス(HCI系を除く)とSIGIRとの大きな違いであ
ると思われます.

 一方,直近の3年間だけを見れば,索引の圧縮やランキングの高速化など,効
率性の向上を目指したアルゴリズムに関する研究も高く評価されています.これ
らの研究の基礎技術はデータベース系の学会との重複が大きいと思われます.

III. SIGIRでの発表形式
 以下ではSIGIRでどのような発表形式があるのかを紹介します.他のカン
ファレンスと重複する部分も多いですが,SIRIP等の独自形式も存在していま
す.ただし,SIGIR2017にて一部変更される可能性があるためご注意いただきた
いと思います.

Full Papers (SIGIR2017 投稿締切: 2017年1月24日)
 ACM 2カラムフォーマット 10ページが上限(2010年まで8ページ),カン
ファレンスでは口頭にて発表されます.

Short Papers (SIGIR2017 投稿締切: 2017年2月28日)
 ACM 2カラムフォーマット 4ページが上限,カンファレンスではポスターにて
発表されます.特に,発展途上だが重要な研究,インタラクティブ・視覚的な発
表形態に適する研究,やや物議を醸すような研究などを対象としています.
SIGIR2016では,新しいテストコレクションやデータセットに関する論文も同様
の枠組みで募集されました.

Demonstrations (SIGIR2017 投稿締切: 2017年2月28日)
 ACM 2カラムフォーマット 2-4ページが上限(SIGIR2015では2ページ,
SIGIR2016では4ページであった),カンファレンスではシステムのデモを行うこ
とができます.特に実装されたシステムをアピールするのに適した発表形式です.

Doctoral Consortium Papers (SIGIR2017 投稿締切: 2017年3月7日)
 博士課程の学生が研究発表・議論を行い,著名な情報検索研究者からアドバイ
スをもらうことができます.SIGIR本会議の前または後に1日かけて行われるイベ
ントであり,キャリアパスに関する情報交換や他の博士学生とも交流できる貴重
な機会です.ACM 2カラムフォーマット 5ページほどの内容を投稿し,メン
ター候補となる研究者によって査読が行われます.Proceedingsには1ページのエ
クステンデッドアブストラクトのみが掲載されるため,投稿前の研究内容を含め
ることもできます.

Industry Track (SIRIP) Speakers (SIGIR2017 アブストラクト締切: 2017年4月
18日)
 SIRIPは数年前のSIGIRから行われているイベントであり,企業における検索技
術導入事例を紹介・議論する場です.SIGIRに参加する研究者や学生などと,実
際に発生している問題,取り組みを共有し,協調的な問題解決やスタートアップ
などを誘発することを狙いとしています.SIGIR2016では概要の投稿によって発
表者が決められ,招待講演やパネルなども行われました.

 Workshop Papers
SIGIRでは情報検索の特に新しいトピックに関するワークショップが企画され,
丸1日かけてそのトピックに関する議論,投稿論文の発表などが行われます.採
択されたWorkshopによって投稿締切が異なりますが,SIGIR 2016では本会議の
2ヶ月ほど前に締切が設定されていました.

 以上,分不相応ではありますが,SIGIRについて,主なトピック,注目されて
いるトピック,発表形式について紹介いたしました.2017年8月,東京にて開催
されるSIGIR 2017への論文投稿をご検討いただければ幸いです.なお,最新の情
報はSIGIR 2017ウェブサイト http://sigir.org/sigir2017/ ,Twitter
@SIGIR17 などで配信しているためぜひご確認ください.

(加藤誠 京都大学大学院情報学研究科 特定助教)

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■5■ IJCAI 2016 に参加して                       岩成達哉 (東京大学)

2016年7月9日から15日に米国ニューヨークのヒルトン・ミッドタウンで開催され
たInternational Joint Conference on Artificial Intelligence (IJCAI) に参
加し,論文発表を行ってきました.IJCAI は人工知能分野のトップ会議で,1969
年から2015年までは隔年で開催されていましたが,今年から毎年開催されるよう
になりました.今年は昨年から15%増である過去最大の2294本の論文が投稿さ
れ,その中から551本(採択率: 24%) の論文が採択されました.また,今年は通
常の Main Track に加え,AI & The Web Track が併設され,人工知能技術のプ
ラットフォームとしてウェブを活用している論文が特に取り上げられました.

4日間の本会議では,その論文数の多さから,すべての口頭発表が発表10分+質疑
2分の合計12分に限定され,最大で8並列となっていました.この短い発表時間の
代わりに,より深い議論を行えるように,すべての発表者は1日中ポスター発表
も行えるようになっており,ほとんどすべての人がこの機会を活用して活発に議
論をしている様子が見られました.分野は多岐にわたり,機械学習,エージェン
トシステム,知識表現,プランニング,自然言語処理などの順にセッション数が
多く割り当てられていました.特に自然言語処理の分野では,ニューラルネット
ワークを用いた研究が多く,中国からの投稿が非常に多い印象を受けました.私
は,AI & The Web Track において,修士1年での研究を「Ordering Concepts
Based on Common Attribute Intensity」というタイトルで,複数のモノを様々
な観点で並べる順序付けのタスクを提案し,ソーシャルメディアテキストを知識
源として様々な手がかりを集め,機械学習を利用して自動で順序を得る手法を発
表してきました.論文を投稿する直前の3ヶ月は,特に研究密度の濃い期間でし
たが,論文を書くことを通して詰め切れていない部分がより明確になり,それら
を少しずつ地道に埋めていく大変さを経験しました.

今回の会議に参加して驚いたことの1つに,コンテンツの充実さがあります.550
本の論文が紹介される本会議はもちろんのこと,それに先立ってワークショップ
やチュートリアルが平行して3日間,AlphaGo の DeepMind を含む豪華な招待講
演,若手研究者による発表の EarlyCareer セッションなどなど,非常に内容の
濃い会議となっていました.特に EarlyCareer セッションは,発表のレベルが
高く,自分の研究に関係する "On Ranking and Choice Models" という順序付け
の手法を総括する発表もあってとても楽しむことができた上,世界中の若手研究
者のレベルの高さを垣間見ることができました.招待講演も非常に豪華だったの
ですが,個人的にはJonathan Gratch さんの "AI’s Final Frontier?
Buildings machines that understand and shape human emotion" が過去から現
在までの人間の感情を理解するAIについて,心理学的視点と平行して取り組む様
子に特に面白さを感じました.

学生としては,AAAI のフェローの方とのランチの機会があったり,学生だけの
レセプションがあるなど,全体として世界中の研究者と関わって今後のキャリア
を考えることのできるイベントとなっていました.今回は,最終的にはかなりギ
リギリの投稿となってしまいましたが,自分で面白いと自信を持てるテーマに時
間をかけて取り組め,結果としてこのような大変貴重な体験ができて良かったと
思います.

IJCAI 2017 はオーストラリアのメルボルンで開催されるようです.幅広い分野
の論文が集まり,内容も豪華な会議ですので,ぜひ参加を検討されてみてはいか
がでしょうか.

(岩成達哉 東京大学大学院情報理工学研究科 喜連川研究室 修士2年)

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■6■ ICWSM 2016参加報告                  小林亮太 (国立情報学研究所)

 ICWSM(International AAAI Conference on Web and Social Media)はWebや
ソーシャルメディアを対象とした分析とそのデータ分析手法について議論する国
際会議で、今年が10回目の開催となります。今年は2016年の5月17日から20日の
日程で、ケルン (ドイツ) で開催されました。

 今年の ICWSM の論文採択率は17%(52/306)でした。米国からの論文が半数
以上(およそ7割) を占める一方、日本から採択された論文は1本でした。
ソーシャルメディア分析の論文では、データ分析した結果を報告するだけにとど
まらず、複数のソーシャルメディア間の比較を行ったり社会学における理論を検
証したりするなどして、ビッグデータを活用して社会を分析している研究が多い
ように感じました。データ分析手法の論文では、ソーシャルメディア分析に直接
役立つ手法を提案した論文が多く感じました。

 私は、Tweet の将来の人気度 (総Retweet数: Popularity) を予測するデータ
分析アルゴリズムについて発表を行いました。人間の1日の活動パターン (概日
リズム)とコンテンツに飽きる心理を予測モデルに取り入れることにより、予測
精度が既存手法に比べて大きく向上することを示しました。私は英語があまり流
暢ではないため、発表前は緊張しましたが、くだらないジョークも通じた (?)
ようでよかったです。多くの研究者の方に私の研究を知ってもらうことができた
ので、ICWSMで発表する機会が得られたことは幸せなことでした。また、2日目の
夜にはポスター、デモセッションが設けられました。軽食を楽しみながら、いろ
いろなソーシャルメディア研究について議論することができ、とても勉強になり
ました。

 ソーシャルメディア分析の研究者がこれだけ集まる国際会議は珍しいかと思い
ます。日本で聴講するのは難しいような発表 (今年はJon Kleinberg先生の研究
室からの発表がありました) もありますし、ソーシャルメディア分析の研究動向
を知りたい方にとっては有益な国際会議だと感じました。来年はモントリオール
(カナダ) で開催されるそうです。ICWSMはフルペーパーだけでなくショート
ペーパー (ポスター) やデモでの発表も可能です。興味を持たれた方は参加を検
討されてはいかがでしょうか?

(小林亮太 国立情報学研究所情報学プリンシプル研究系 助教)

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