学会員メーリングリストアーカイブ (2019年)

[dbjapan] DBSJ Newsletter Vol. 12, No. 7: ACM UbiComp/ISWC 2019, ACM Multimedia 2019, ACM CIKM 2019, IEEE ICDM 2019, WebDB Forum 2019, VLDB2020への道

  • To: Dbjapan <dbjapan [at] dbsj.org>
  • Subject: [dbjapan] DBSJ Newsletter Vol. 12, No. 7: ACM UbiComp/ISWC 2019, ACM Multimedia 2019, ACM CIKM 2019, IEEE ICDM 2019, WebDB Forum 2019, VLDB2020への道
  • From: Yuanyuan WANG <y.wang [at] yamaguchi-u.ac.jp>
  • Date: Sun, 01 Dec 2019 09:09:54 +0900

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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2019年12月号 ( Vol. 12, No. 7 )
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木枯らしの候,寒さも日を追って厳しくなってまいりましたが,皆様いかがお過
ごしでしょうか.年末ご多忙の折ではございますが,お体にお気をつけて良き新
年をお迎えください.

さて,本号では, 9月に開催されました,ユビキタスコンピューティング分野の
トップカンファレンス「ACM UbiComp」とウェアラブルコンピューティング分野
のトップカンファレンス「ACM ISWC」をはじめ,マルチメディアや情報検索,デ
ータベース,ナレッジマネジメントおよびデータマイニング分野での最重要国際
会議「ACM Multimedia」,「ACM CIKM」と「IEEE ICDM」についてご寄稿いただ
きました.それぞれの会議の特徴や最近の傾向,トップカンファレンスへの投稿
のメリット,論文採択に至るまでの工夫など,皆様のご参考になれば幸いです.
加えて, 9月に開催されました,DB系・Web系における国内唯一の査読付き会議
である WebDB Forum 2019の開催報告をご寄稿いただきました.さらに,VLDB2020
に向けた連載記事をご寄稿いただきました.


本号ならびに DBSJ Newsletterに対するご意見あるいは次号以降に期待する内容
についてのご意見がございましたらnews-com [at] dbsj.orgまでお寄せください.



                                 日本データベース学会 電子広報編集委員会
                        (担当編集委員 王 元元)

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目次
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1. ACM UbiComp/ISWC 2019 参加報告
    村尾 和哉  立命館大学

2. ACM Multimedia 2019 参加報告
    浜中 雅俊  理化学研究所

3. ACM CIKM 2019 参加報告
    川畑 光希  大阪大学

4.IEEE ICDM 2019 参加報告
    二反田 篤史 東京大学

5. WebDB Forum 2019 開催報告
    鈴木 伸崇 筑波大学

6.VLDBへの道(その5)
    河原林 健一 国立情報学研究所
    天方 大地   大阪大学
    佐々木 勇和 大阪大学

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■1■ ACM UbiComp/ISWC 2019 参加報告      村尾 和哉 (立命館大学)
                                      
2019年9月9日~13日の日程で,英国のロンドンで開催されたACM International
Joint Conference on Pervasive and Ubiquitous Computing (UbiComp) および
ACM International Symposium on Wearable Computers (ISWC) に参加しました
ので,その報告を致します.UbiCompはユビキタスコンピューティング関する難
関国際会議,ISWC はウェアラブルコンピューティングに関する難関国際会議で
す.現在の UbiComp はもともと旧UbiComp(さらにその前はHUCという名称)と
Pervasive の2つに分かれており,2013年に統合しました.ともに難関国際会議
であり,当時は大きなインパクトがありました.現在の UbiComp の正式名称に
Jointがついているのはそのためです.UbiCompは今年でHUCから数えて20回目,
Pervasiveから数えて18回目です.ISWCは今年で23回目です.

UbiCompはジャーナルモデルを採用しており,年4度の投稿締切があるProceeding
of the ACM on Interactive, Mobile, Wearable and Ubiquitous Technologies
(IMWUT)に採択された論文が登壇発表に招待されます.2018年8月から2019年5月
までにIMUWTに投稿された論文数は 750件で,うち176件が直近過去1年間に採択
され,今年の UbiComp に招待され,そのうち 173件が招待を受け入れました.
ISWCは年1度(4月から5月頃)の投稿締切の国際会議です.125件の投稿があり,
17件が Long paperとして採択されました.このほか,4ページのNote,2ページ
のBriefという採択形式があります.Noteとして投稿もできますし,Longで投稿
してNoteで採択されるパターンもあります.

今年の参加者数は約650名で,ロンドンの物価が高いせいか,財政的にも苦しい
という話を聞き,レセプションのみでバンケットはありませんでした.口頭発
表のパラレル数は2018年は6パラレル,2017年は5パラレルであったのに対し,
2019年は3パラレルであり,1か所で多くの発表が聞ける利点はありますが,1件
当たりの発表時間は UbiComp で質疑込み15分,ISWC はLong 15分,Note 7分,
Brief 3分と短く設定されました.また,今年は特に UbiCompでは著者でない人
物が代理で発表するケースが多くみられました.ビザの関係か,IMWUTで既に採
択されているのであえて渡航費をかけて発表に来る価値は無いと考えたのかわ
かりませんが,最後のスライドで著者の連絡先を表示して質疑を行わないため,
ディスカッションが無いのは残念でした.

私は「Estimating Load Positions of Wearable Devices based on Difference
in Pulse Wave Arrival Time」というタイトルでISWCのLong paperで採択され,
登壇発表を行いました.この論文は,心臓から送出された脈波の伝搬遅延を各
身体部位に装着したウェアラブルデバイスで計測し,そのデバイスの位置を推
定する手法を提案しています.大変光栄にもこの論文がBest Paperを受賞しま
した.開催前の段階ではBest Paper Nomineeという形で125件から3件がリスト
アップされており,授賞式当日にBest Paper 1件が発表されるという形式でし
た.あいにく私は授賞式には間に合わず,機内で受賞したことを知り,筆頭著
者のM1の吉田君が賞状を授与されました.発表では質疑時間に聴衆全員参加型
のディスカッション(稀に発生する)が始まり,興味を持っていただけたよう
です.
https://dl.acm.org/citation.cfm?id=3347743

UbiComp/ISWC2020は9月12日~16日の日程でメキシコのカンクンで開催されます.
日本のプレゼンスを示すためにも,ぜひ積極的な投稿を期待いたします.


(村尾 和哉  立命館大学 情報理工学部 准教授)

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■2■ ACM Multimedia 2019 参加報告       浜中 雅俊 (理化学研究所)

2019年10月21日から25日までフランスのニースで開催されたACM Multimedia 2019
(the 27th ACM International Conference on Multimedia.) に参加し口頭発表
を行ってきましたので報告いたします.ACM Multimedia は,マルチメディア分
野におけるトップ国際会議で本会議の論文投稿数は936件で,採択率は 26.92%
(252件)でした.このうち15分の口頭発表とポスター発表として採択されたのが
88件,残りは1分のフラッシュトーク及びポスター発表として採択されました.

投稿時には,「Engaging users with multimedia」「Experience」「Multimedia
systems」「Understanding multimedia content」という4つのテーマが示され,
その下にさらに細分化された12の細分野が示されていましたが,採択論文は,
Engaging users with multimedia (43件),Multimedia experience (39件),
Multimedia systems (26件),Multimodal fusion (25件),Vision and language
(33件),Media interpretation (86件)という6つの分野に分けてWeb上に示され
ました.上記の括弧の中は,それぞれの分野の採択件数です.採択論文のタイト
ルで一番多かった語は,Network (65件),二番目は Learning (42件),三番目は
deep (24件)でした.

ポスターパネルは,上から俯瞰して見ると十字のように4枚を組み合わせたもの
が用いられました.限られたスペースを有効に使うための工夫と思いましたが,
隣合わせたポスターに多くの人が集まり結果的に圧迫されてしまった発表者もい
て非常に気の毒だと感じました.その一方で,デモ発表は口頭発表の機会はない
けれども,48件の投稿中32件が採択されていて,しかも机を含む広い発表スベー
スを与えられていましたので,若干優遇されているようにも感じられました.デ
モ発表の投稿締め切りは論文発表の投稿締め切りより若干遅いため,残念ながら
間に合わなかった場合の選択肢としても検討いただきたいと思います.

口頭発表,デモ発表以外にも,Grand ChallengeやMultimedia Artworks,Open
Source Software Competitionなど様々な投稿があるのもACM Multimediaの特長
です.本年度のOpen Source Software Competitionでは,名古屋大学の角倉慎弥
さんが最優秀賞を受賞されました.

次回の ACM Multimedia 2020 は10月12日から16日にシアトルで開催され,論文
締切は2020年3月28日となっています.


(浜中 雅俊  理化学研究所 革新知能統合研究センター 音楽情報知能チーム
チームリーダー)

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■3■ ACM CIKM 2019 参加報告            川畑 光希 (大阪大学)

2019年11月3日から7日にかけて中国・北京で開催された CIKM 2019 (The 28th
ACM International Conference on Information and Knowledge Management)に
参加しました.CIKM は,情報検索,データマイニング,データベースと多岐に
わたるトピックを扱う主要国際会議の一つです.今年は「AI for Future Life」
をテーマに,Full paper 200件,Short paper 100件の発表が行われました.採
択率はそれぞれ 19.4% (200/1030),21.3% (100/470) となっています.例年に
比べ投稿数が200件ほど増加しましたが,Full paperの採択数も50件増加し,全
体的な採択率は変化していません.発表件数が増え,より大規模な会議となり
ました.プログラムの内容も非常に充実しており,当該分野の著名な研究者に
よる基調講演が 4件,企業の方々による招待講演が 8件と様々な観点から学術
研究・開発の動向を知ることができます.

今年 Best Research Paper Award を受賞したのは,Noy Cohen らの「AutoGRD:
Model Recommendation Through Graphical Dataset Representation」です.
AutoGRDはデータセット集合,タスク(分類・回帰),評価指標の潜在的な関
係性を抽出し,それらの特徴を基に未知データセットに対し高い性能を示すア
ルゴリズムを推薦する技術です.現在,多くの機械学習手法はパラメータチュ
ーニングに高度な専門知識と時間を要します.今後 AI が普及していく中,人
的コストと時間的コストの削減は重要な課題なのだと感じました.続く Best
Research Paper Runner-Up Award は Qingqing Long らの「Hierarchical
Community Structure Preserving Network Embedding: A Subspace Approach」
で,会議全体を通してもグラフマイニングに関する研究は特に注目を集めてい
ました.また,時空間データ解析,自然言語処理も負けず劣らずといった様子
で,これらに関するセッションは常に満席になり,活発な議論が交わされてい
ました。

私は今回Full paperが採択され,「Automatic Sequential Pattern Mining in
Data Streams」という題目で発表させていただきました.この論文は,時系列
データストリームに含まれるパターンの数と変化点を自動的に推定しながら,
高速にモデル化していく技術です.本会議での発表は初めてで緊張しましたが,
多くの方が声をかけてくださり,議論を楽しむことができました.こうした経
験は今後研究を続ける上で大変励みになります.また,CIKMでは Full/Short問
わずポスター発表を行えることも良い点です.この会議に参加し,とても有意
義な時間を過ごすことができました.

次回のCIKM 2020は10月末,Ireland (Galway) での開催となります.論文投稿
の締切は5月です.ぜひ参加・投稿をご検討ください.


(川畑 光希  大阪大学 産業科学研究所 櫻井研究室)

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■4■ IEEE ICDM 2019 参加報告             二反田 篤史 (東京大学)

2019年11月8日から11日にかけて中国の北京で開催された国際会議 IEEE
International Conference on Data Mining (ICDM) に参加してきました.ICDM
はデータマイニング分野の主要会議の一つでKDDに次ぐレベルにあります.採択
率も厳しく今回は全投稿数1046本中,採択論文数はレギュラーペーパーが 95本
(採択率9.1%),ショートペーパーが 99本(採択率9.5%)でした.国別投稿数
は中国・アメリカで過半数(中国40.95%,アメリカ25.31%)を占めており,両国
における人工知能研究の隆盛が反映された形になったかと思われます.日本から
の投稿数は3位のオーストラリアに次いで4位ですが,採択率は日本が1位という
結果でした.

ICDM の主要トピックはデータマイニングですが,その対象ドメインとしては従
来分野のものからネットワークデータ,Eコマースデータ,時空間データ等が人
気のようでした.また提案モデルについてはやはり深層学習モデルに基づくも
のが多かった印象です.上記以外の分野でも興味深い発表は色々あったのです
が,今回はポスター発表がなくパラレルセッション形式でのオーラル発表のみ
だった為,あまり多くの発表を聴講する事が出来ない状況でした.私は研究対
象が機械学習モデルの最適化手法ですので,Distributed & High Performance
Data Mining のセッションを拝聴しました.LSTMや深層学習モデルの効果的な
分散学習手法を学べ,非常に有意義な時間を過ごせました.

私の ICDM採択論文も分散学習に関連するものでしたので,このセッションにて
発表してきました.論文は「Sharp Characterization of Optimal Minibatch
Size for Stochastic Finite Sum Convex Optimization」というタイトルでレ
ギュラーペーパーとして採択されました.ミニバッチを用いた確率的最適化手
法がミニマックスの意味で最小反復数を達成する為に必要なミニバッチサイズ
を理論的に特定するというものです.ミニバッチ法は分散コンピューティング
により効率化される事が知られていますが,理想的な条件下ではその最小計算
時間は最小反復数におおよそ比例します.つまり本論文では分散コンピューテ
ィング下におけるミニバッチ法の最小計算時間とそれを達成するための最小ミ
ニバッチサイズ,言い換えれば最小計算ノード数を特定したことになります.

私は今回がICDM初参加でしたが発表のレベルも高く質疑も活発な会議だという
感想を抱きました.来年のICDMはイタリアのソレントにて開催されます.是非,
論文投稿あるいは参加を検討してみては如何でしょうか.


(二反田 篤史  東京大学 大学院情報理工学系研究科 助教)

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■5■ WebDB Forum 2019 開催報告              鈴木 伸崇 (筑波大学)

第12回Webとデータベースに関するフォーラム (WebDB Forum 2019)
日時:2019年9月8日(日),9日(月)
場所:工学院大学 新宿キャンパス
URL:https://bit.ly/2G2nYXt

○主催:情報処理学会 データベースシステム研究会
    日本データベース学会
    電子情報通信学会 データ工学研究専門委員会
    工学院大学

○協賛企業
(プラチナ):株式会社リクルートテクノロジーズ
       富士通株式会社
       株式会社 東芝
(ゴールド):ソフトバンク株式会社
       株式会社LegalForce
       株式会社Gunosy
       株式会社マイクロアド
       株式会社LIFULL
       株式会社FRONTEO
       株式会社日立製作所
       株式会社Tech CFO office
(シルバー):株式会社クライム
       株式会社サイバーエージェント
       株式会社GA technologies
       株式会社野村総合研究所
(ブロンズ):ヤフー株式会社
       楽天技術研究所

○協賛:情報処理学会 情報基礎とアクセス技術研究会
    ARG Webインテリジェンスとインタラクション研究会
    ACM SIGMOD日本支部
    Firebird日本ユーザ会
    日本PostgreSQLユーザ会
    日本MySQLユーザ会

WebDB Forum 2019は,2019年9月8日(日)および9日(月)の2日間に渡って工学院
大学新宿キャンパスで行われました.準備にあたって様々な方からお話を伺い,
実行委員会で検討させていただいた結果,今回のWebDB Forumは「Webとデータ
ベースのこれからがわかる2日間」をキャッチフレーズに,以下のような新し
い試みを採り入れ,萌芽的な研究から最先端の研究までを網羅するイベントと
して企画いたしました.

1.先端研究解説セッション:最先端の研究内容を知ることができるように,
Web/DB分野のトップカンファレンスで発表された国内研究者をお招きして,研
究内容を解説していただく先端研究解説セッションを設けました.プログラム
委員の推薦に基づいて検討した結果,ICDEやWWWなどで発表された9名の方々か
らご発表いただけることになりました.

2.WebDB査読付き論文の復活:今回の査読付き論文では,完成度の高い論文
だけでなく,アイディアの優れた論文を積極的に評価することに重点を置き,
4ページ以内での投稿を募集することといたしました.タイトなスケジュール
にも関わらず37件のご投稿をいただき,22件を採択とさせていただきました.
採択論文は,情報処理学会電子図書館<https://bit.ly/2r9pfXS>でご覧いた
だけます.

3.ポスターセッション:ポスター発表の場における議論・交流の更なる活性
化,および会場のキャパシティなども踏まえ,ポスターのみの発表を新たに募
集し,ポスターセッションを懇親会から独立させて昼に開催することにいたし
ました.お陰様で多数のお申し込みをいただき,2日間で100件を超える充実し
たプログラムとなりました.

以上の通り準備を進めて参りましたが, 本フォーラムの開催を待っていたか
のように「観測史上最強クラス」の台風15号が接近し,1日目の夜から2日目の
朝にかけて関東地方を直撃しました.そのため,1日目夕刻に予定していた参
加者交流会をクロージングと兼ねる形で2日目の夕刻に移動,さらに2日目の開
始時刻を9:00から10:30,さらには12:15に変更し,プログラムの組み換えを余
儀なくされました.発表者・参加者の皆様には,度重なる変更で大変なご不便
をおかけいたしました.

しかしながら,実行委員の皆様の臨機応変かつ献身的なご対応,参加者の方々
からの多大なご理解・ご協力により,339名もの方々にご参加いただき,盛況
のうちに終えることができました.台風の影響にも関わらず,お陰様でどのセッ
ションも盛況で,企業ブースも賑わい,ポスターセッションは終了時間を超え
て大いに盛り上がりました.ご協賛頂いた企業及び団体の皆様,ご発表・ご参
加頂いた皆様,お忙しい中多大なご尽力をいただいた実行委員・プログラム委
員の皆様に心より御礼申し上げます.


(鈴木 伸崇 筑波大学 図書館情報メディア系 准教授)

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■6■ VLDBへの道(その5) 天方 大地 (大阪大学),佐々木 勇和 (大阪大学)

今回のVLDBへの道では,「他分野の研究者から見たデータベース会議」という
テーマで国立情報学研究所の河原林健一教授から貴重なお話をご寄稿頂きまし
た.DB分野にも関連する理論分野のトップ会議,DB会議との違いなど,非常に
興味深い内容となっております.

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TheoryとDBのコミュニティとトップ会議の違い:DBのトップ会議で論文発表お
よびPCを行った経験から

私のメインの研究コミュニティは「Theory」である.Theoryとは,計算機科学
の中で,アルゴリズム,データ構造,計算理論,暗号理論,量子計算理論,量
子アルゴリズム,並列計算,分散計算などの分野からなり,「理論計算機科学」
と日本語で訳されることもしばしばある.最も,日本語のニュアンスは,英語
とは若干違っている.「Theoretical Computer Science」は,北米・イスラエ
ルでは,ほぼTheoryそのものを指すと思われていることが多いが,一方でヨー
ロッパでは,Logic やプログラム言語の一部まで意味に含むことが多い.日本
語では,どちらかというとヨーロッパ風に使われている.

Theoryは,他の計算機科学分野と同じく,トップ会議でDRIVENされている.具
体的には,STOC,FOCS,SODA (+CCC) である.STOC・FOCSは,50年以上の歴史
(FOCSは60年以上)を持ち,長年TheoryのFLAGSHIP会議だと考えられてきたが,
最近は,アルゴリズムのトップ論文は SODA,計算理論のトップ論文は CCC に
発表されることも多くなってきた.その他,PODC(分散計算),CRYPTO(暗号)
もトップ会議と考えられている.ちなみにTheory分野の論文には実装はまずな
い.

Theoryのコミュニティの大きさは,20年前から成長しているものの,Database
ほど大きくはない.STOC・FOCSは,参加者は350人程度,SODAも参加者400-450
人程度となっており,Databaseのトップ会議の半分以下の参加数に思う.一方
で,チューリング賞受賞者の数は,おそらく計算機科学全分野の中でトップで
あり,5・6年に一回程度,Theoryから輩出している.以上のように多くのエリ
ートを輩出しながらコンパクトにまとまっているのがTheoryの特徴ある.実際
に全世界のトップ大学の計算機科学学科の10%くらいの教員はTheoryと思う.
Theoryは,コンパクトにまとまっているものの,トップクラスで生き抜くのが
非常にタフな分野であることを強調したい.

さて,TheoryとDatabaseは,どのような関係であったかというと,両分野とも
計算機科学の発展の初期段階から分野が立ち上がり,計算機科学の王道を歩い
てきた.もともとTheoryは,「基礎」,Databaseは「基盤」という位置づけで,
計算機科学の基礎・基盤を長らくになってきた.また Aho,Hopcroft,Ullman
による「The Design and Analysis of Computer Algorithms」は, Theory と
Databaseの両分野の名著である.この本からもわかるとおり,Theoryは,計算
量を理論的に(オーダーの意味で)削減するアルゴリズムあるいはデータ構造
の開発を目指すのに対して,Databaseは,計算量の改善というよりは,実装上
の高速化,あるいは省メモリー化を目指す方向の違いがある.

また DatabaseとTheory の両分野で活躍している研究者も多数いる.代表格は
Ullmanだろう.またPODSは,SIGMOD,VLDB,ICDEよりTheoryのFlavorが強く,
PODS には数多くの Theory研究者が活躍している.将来のチューリング賞候補
Papadimitouが代表格だろう.また自分は2013年のSODAでBest Paperをとったが,
その論文での共著者Groheは,その数年後にPODSのPC Chairを務めていた(最も
本人から聞いた話であるが,PODSは将来どのようにあるべきか?という点で,
本人はかなり悩んでいたようである).その他にも,Muthukrishnan、Cormode
や,近年のPrivacy周りの研究者はTheory,Databaseの両分野にまたがり活躍し
ている.

さて,Theory分野を専門としている自分も過去5年ほどの間に Database分野の
トップ会議で論文を5本ほど発表した.また VLDB’16のPCも拝命した.これら
の論文を書いたきっかけは,自分が研究総括を務めた JST ERATO「河原林巨大
グラフ」において,Theory以外の分野にTheoryのバックグランドを用いてコミ
ットすることを目標に掲げたことである.その中で実感したのは,Databaseの
トップ会議に論文を発表することもやはり難しい,ということである.正確に
言うとTheoryとは違った意味で難しい.Theoryの場合,証明した定理,開発し
たアルゴリズムの評価は,それほど難しくない.数学的な「深さ」と計算量的
な改善が主な指標だ(ところでTheoryのトップ会議PCの主な役割はこの部分の
判断).したがって,論文がこれらの指標を満たしていれば,論文評価はバグ
があるか?証明は解読可能か?という点のみが論点となる(Theoryのトップ会
議では,この部分は外部レフェリーに任せている).一方で,これらの指標を
満たさずトップ会議にRejectされた論文は,マージナルな改善では全く評価さ
れない.したがってTheory分野のトップ会議に論文を通すためには,最初から
目標を高いところに置かなければならない.よってTheoryでよい論文を書くの
は,非常に多くの時間がかかり,また本数を量産することも簡単ではない(ま
た投稿時には平均で 30-40ページの証明が論文に含まれることが多い.100ペ
ージ越えの論文も珍しくはない.ちなみにTheory系のトップ会議は,数学的証
明をAppendixなりSupplementなりにすべて乗せることが義務である).

一方でDatabaseの場合は,実装の部分が最重要視され,実装を極限まで最適化
しなければならない.この部分に関しては当然ながら技術的貢献も含まれる.
査読者側から見て,実装の部分で少しでも改善の余地がある場合は,高い評価
を得ることはできない.したがって,Databaseの論文も,最初のドラフトが書
けた段階から,実装の最適化などを得て投稿可能になるまで多くの時間がかか
る.また査読でも,実装部分に関してかなり無茶な要求をされる.VLDBのPCを
やってみた感想は,研究の方向性を評価するPCがいたとしても,「今回は実装
面で改善の余地があり,Revision期間より長い時間をかけて改善すべきである.
したがってReject.次回以降に期待!」という査読が多かったと思う.

最後に来年度日本で開催されるVLDBに対するTheoryの「見方」を述べたい.こ
の見方は研究的な要素よりは,Database分野で確立された「VLDBスタイル」に
関してである.TheoryでもVLDBスタイル導入の声はあり,とくにDeadlineを複
数設定するやり方に対しては賛同の声は多い.一方で,数学的な証明を追うた
めには,2か月程度の査読期間は必要であり,Theory論文に「毎月」のDeadline
設定は難しいという声が多いのも事実だ.Databeseの成功がTheoryに波及する
かは今後の課題に思う.さらに SIGMOD/VLDB で導入されている Revisionに関
しても評価する声もある.一方でRevisionを導入するくらいであれば,ジャー
ナルに出版すべき,との声があるのも事実だ.Theoryの研究者は,トップ会議
で出版された論文の中からセレクトしてジャーナル(特に J. ACM,Siam J.
Comput.)に投稿することも多い(Theoryの代表的賞であるGodel賞は,ジャー
ナル論文のみが対象である).

またPODSに対して,Theoryがもっとコミットするか?ということも現在議論さ
れている.Streaming Algorithm や Privacy の話,そして古くから存在する
Database 上での計算量解析は,Theory 中心の内容であるため,今後 PODS に
もっとTheoryが論文を投稿すべき,という声もある.一方で,先に述べたよう
にPODSを将来のどのようにするか?はDatabaseの課題であり,これに関する結
論次第でTheory分野のPODSへのコミットが変わってくるだろうと思う.
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河原林 健一(国立情報学研究所)
天方 大地(大阪大学)
佐々木 勇和(大阪大学)

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王 元元
山口大学大学院創成科学研究科
工学系学域・知能情報工学分野
(兼担:工学部知能情報工学科)
助教 博士(環境人間学)
y.wang [at] yamaguchi-u.ac.jp
circl.wang [at] gmail.com
0836-85-9522

Yuanyuan Wang, Ph.D
Assistant Professor, Department of Information Science and Engineering, College of Engineering, Graduate School of Sciences and Technology for Innovation, Yamaguchi University, Japan 
E-mail: y.wang [at] yamaguchi-u.ac.jp
        circl.wang [at] gmail.com
Tel: +81-836-85-9522