日本データベース学会

dbjapanメーリングリストアーカイブ(2020年)

[dbjapan] DBSJ Newsletter Vol. 12, No. 8: WI2019, ICBSP 2019, ISM2019, IEEE BigData 2019, The Web Conf/ACM Hypertext, VLDBへの道

  • To: dbjapan [at] dbsj.org
  • Subject: [dbjapan] DBSJ Newsletter Vol. 12, No. 8: WI2019, ICBSP 2019, ISM2019, IEEE BigData 2019, The Web Conf/ACM Hypertext, VLDBへの道
  • From: Tadashi Murakami <tadashi.murakami [at] kek.jp>
  • Date: Sat, 01 Feb 2020 11:49:49 +0900

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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2020年2月号 ( Vol. 12, No. 8 )
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本号では,10,12月に開催されました国際会議参加報告4件,WWW 改め The Web
ConferenceとACM HypertextのTown Hallミーティング報告,ならびに VLDB2020
に向けた連載記事をご寄稿いただきました.国際会議に関しましては,10月に
開催された WI2019 および ICBSP2019,12月に開催された ISM2019 および
BigData2019 についてご報告いただきました.

研究の最新動向,Award に関すること,ご自身の発表,The Web Conf など会議
の動向,VLDB採択経験者による刺激的なお話,等々,盛りだくさんの記事になっ
ております.ぜひお読みいただければと存じます.

本号ならびにDBSJ Newsletterに対するご意見あるいは次号以降に期待する内容
についてのご意見がございましたらnews-com [at] dbsj.orgまでお寄せください.

                   日本データベース学会 電子広報委員会
                        (担当編集委員 村上 直)

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目次
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1.WI2019 参加報告
  中川 大海(東京大学)

2.ICBSP 2019 参加報告
  住谷 雄樹(筑波大学)

3.ISM2019参加報告
  橋本 渉(首都大学東京)

4.IEEE BigData 2019 参加報告
  平井 聡(東京大学)

5.The Web ConfとACM HypertextのTown Hallミーティング報告
  田島 敬史(京都大学)

6.VLDBへの道(その6)
  佐々木 勇和(大阪大学)
  天方 大地(大阪大学)

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■1■ WI2019 参加報告              中川 大海(東京大学)

2019年10月14日から17日までギリシャのテッサロニキで開催された,IEEE/WIC/ACM 
International Conference on Web Intelligence (WI) 2019に参加してきました.
WIはWeb系の国際会議の一つで,集合知,データサイエンス,Webマイニングなど,
Webや人工知能に関する研究やアプリケーションを学際的に取り扱っている学会で
す.

投稿数は全部で163件で,うち18.4%の30件がFull Paper,47件がShort Paperが
採択されており,全体で見ると47.2%の採択率となりました.
初日はSNS分析,サイバーセキュリティ,プライバシー,スマートシティ,セキュ
リティなど,様々なトピックのWorkshopが開かれており,2日目から4日目のMain 
Trackでは「Web of People」「Web of Data」「Web of Things」「Web of Trust」
「Web of Health」の5つのTrackに分かれて発表が行われていました.
Keynoteの内容も多岐に渡り,Steffen Staab氏による「Web Futures - Inclusive, 
Intelligent, Sustainable」では,近年のWebに関する研究を俯瞰しつつ,
「Ambivalences of the Web」として,Personalization vs Privacyのような対立
構造にあるいくつかの研究トピックについて紹介されていました.

私はMain Trackの「Web of Data」にて,「Graph-based Knowledge Tracing: 
Modeling Student Proficiency Using Graph Neural Network」という題目で
Full  Paperとして発表しました.
本研究は,オンライン教育サービスにおいて受講者に適切な教材推薦などを行う
ために,学習ログを元にした受講者の習熟度予測を行う"knowledge tracing"のタ
スクの改善を目的としたものです.
コンテンツ間の関係性をグラフ構造と見なした上で,Graph Neural Networks
(GNN)を用いて受講者の習熟を定式化する手法を提案し,従来手法に比べて予測
の精度と解釈性を改善しました.

本研究は光栄にもBest Student Paper Awardをいただくことができました.
本研究は,教育ドメインでの応用的な研究ではありますが,ここ数年で研究が活
発化しているGNNのような先端的な深層学習の手法との親和性に着目した上で,そ
の類似点と相違点を整理し,相違点を解決する独自の工夫を加えるなど,GNNの研
究としても価値のある研究となるよう心がけました.
また,本研究のような応用的なテーマは,実際にサービスなどで活用されてはじ
めて価値を生むものです.
そのため,細かな数値上の改善だけでなく,提案手法が教師や生徒,オンライン
教育プラットフォームなどのステイクホルダーにとってどのような便益をもたら
すのか,といった観点からも,本研究の貢献を明確にできるよう,執筆や発表の
構成なども意識しました.
そうしたプレゼンテーションが,結果的に,教育に限らない多様な分野の査読者・
研究者などからも,研究の意義を理解しやすく,評価いただけたのではないかと
思います.

最終日のディナーなどでは多様な国籍・機関の方々と交流することができました
が,特に,海外の同世代の博士学生との交流では,彼らの研究や日常についての
生の声を聞くことで良い刺激を得ることができ,こうした経験も国際会議に参加
することの大きな価値の一つだと感じました.

WIはWebに関する研究やアプリケーションに多様なトピック/切り口で触れること
のできる,ユニークなカンファレンスだと思います.
興味のある方は,ぜひ投稿や参加をご検討してみてはいかがでしょうか.

(中川 大海 東京大学大学院 工学系研究科 松尾研究室)


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■2■ ICBSP 2019 参加報告            住谷 雄樹(筑波大学)

2019年10月17日から19日にかけて名古屋の名古屋市立病院で開催された,4th 
International Conference on Biomedical Imaging, Signal Processing (ICBSP 
2019)に参加しました.
17, 18日にキーノート・招待講演・論文の口頭発表があり,19日は白川郷と飛騨
高山へのAcademic Visitでした.私は17, 18日に参加しました.
投稿された論文のトピックは,Biomedical Imaging, Signal Processingという
ことで,医療画像や生体信号から病気の検知・予測 (Detection・Prediction)を
行うものが多かったです.使用されている技術はDeep Learningを中心とした機
械学習が過半数を占めていた印象です.
参加者は40人程と大規模な会議ではありませんが,開催国である日本の他にも,
中国・台湾・ロシア・インドなど,様々な国の方が出席されていました.
投稿された論文は35件でした.
個人的に,「D-agree・大規模合意形成支援システム」を紹介するキーノートが
印象的でした.「D-agree」はネット上で群衆の合意を形成するシステムで,名
古屋工業大学が名古屋市民の皆さんとの協力で進められています.このように会
議を通して開催地の取り組みについて知ることができるのは,非常に刺激的でし
た.

また手前味噌で恐縮ですが,我々の発表について少し紹介させていただきます.
今回我々は,『NR-GAN: Noise Reduction GAN for Mice Electroencephalogram 
Signals』という論文を発表しました.内容は,入力信号(ノイジー信号)・正解
信号(クリア信号)のペアを用いずに学習可能な,NR-GANというマウス脳波のノイ
ズ削減深層学習モデルの提案です.時系列データに対する深層学習を用いたノイ
ズ削減手法は,信号ペアを用いた教師あり学習によって最適化されます.主にこ
れらの研究は,音声信号に対して盛んに行われています.
一方で,脳波のような生体信号では信号ペアの作成が困難であるため,深層学習
を用いたノイズ削減手法は提案されていません.
そこで今回我々は,信号ペアを用いずに脳波のノイズ削減を行う深層学習モデル
を提案しました.

私にとってはこれが初めての英語による口頭発表だったので不安でしたが,チェ
アの方をはじめ参加者の皆さんが,私を含め学生の発表を優しくフォローしてく
ださりました.
発表時間を超過したり質問を何度も聞き返したりと,至らぬ点も多々ありました
が,建設的な議論をすることができたと思います.
また今回の発表で,Best Oral Presentationを受賞させていただきました.短い
発表時間でしたので,解決したい問題の重要性とその難しさを重点的に伝えるよ
うに工夫しました.文字や数式は極力含めず、図を使って直感的に理解しやすい
よう心がけました。そのことを評価していただき、受賞につながったのではと思
います。
一方で、手法の説明は大雑把なものになってしまい、技術的な工夫点や既存手法
との違いなどを十分伝えることができなかったと感じます。限られた時間で、各
要素を余すことなく伝えることの難しさを改めて実感しました。
ちなみに、上記の賞は各セッションから一人ずつ,合計で5人選出されました.こ
れを励みに,さらに精進していけたらと思います.

今年のICBSPは,去年に引き続き日本で開催されます.場所は北九州の九州工科大
学で,投稿締切は4月,開催は9月になります.
皆さま是非,投稿や参加をご検討してみてはいかがでしょうか.

(住谷 雄樹 筑波大学大学院 システム情報工学研究科 北川・天笠研究室)


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■3■ ISM2019参加報告             橋本 渉(首都大学東京)

 今回で第21回目の開催となるIEEE International Symposium on Multimedia 
(ISM2019)は米国サンディエゴで2019年12月9日から12月11日にわたって開催され
ました.発表時間は通常セッションが質疑応答込み約20分,ベストペーパーセッ
ションが約25分と短い時間の中で積極的な質疑応答が交わされており,どのセッ
ションも非常に盛り上がっている印象を受けました.Full paperの採択率は22.2%
(81件中18件)です.
 発表の多くは,近年多様化するマルチメディア(特に画像や動画)から収集され
るビッグデータを用いた研究に関するものでした.どのような研究も応用的なも
のが多く,特にベストペーパーセッションは発表者が世界の大企業の研究者の方
々であったため,最先端かつプレゼンテーションも心惹かれるようなものが多い
印象を受けました.ベストペーパーに選ばれた研究に関して簡単に述べると,非
常に手間がかかる画像からロゴを検出するというタスクに対して,少ないデータ
から機械学習を用いて高精度かつ自動的に抽出するパイプラインの提案でした.
UIなどを組み合わせて誤検出を防ぐなど,非常にユニークな研究で興味深く聴講
させていただきました. 

○ 開催場所
 会場はサンディエゴのダウンタウンの近くに位置するWyndham Hotelsで,空港
からも近く目の前には米国唯一の海軍博物館や高層ビル群,対岸にはリゾートし
て有名なコロナド島や海が広がっていました.街での移動は路面電車とバスがメ
インになっており少し治安に不安はありましたが問題なく利用することができま
した.時間がないときにはUBERやLIME(電動キックボード)の利用も非常に便利で
したのでオススメです.また,ちょうどMLBのウィンターミーティングも近くのホ
テルで開催されていて日本の野球選手も多く訪れていたようでした.街はメキシ
コとの国境付近の都市であるため,陽気な雰囲気でスペイン語も多く飛び交って
おり,全米8位の都会と温暖なリゾートの良いところどりをしているような場所で
した. 

○ 投稿論文の概要
 私は,「Detection of Car Abnormal Vibration using Machine Learning」と
いうタイトルでISM2019に投稿しました.論文執筆ではシンプルかつ論理立てて書
くことを意識しました.レビューの評価が良かったこともあり,ベストペーパー
セッションで発表させて頂きました.研究の有用性が高い点,課題設定から提案
手法・検証までを網羅的に行っている論文の構成力などを評価していただきまし
た.
 概要は以下の通りです.近年,カーシェアリングサービスの需要が急激に高まっ
ている.しかし,事業者へのヒアリングからユーザ間の”キズ”に関するトラブ
ルが増えていることが分かった.従来のレンタカーなどでは人手で車体のチェッ
クを行っていたがオペレーションが無人化されているカーシェアリングではキズ
の発生の有無や情報を知ることが困難になっている.そこで,私は 機械学習と振
動解析の技術を用いて自動的にキズを検知する手法を提案するとともに,停車及
び擬似的な走行状態の振動を収集,生成して実験を行うことで提案手法の有用性
を検証した.

(橋本 渉 首都大学東京 システムデザイン研究科 石川研究室)


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■4■ IEEE BigData 2019 参加報告         平井 聡(東京大学)

2019年12月9日から12日にかけて米国Los Angelesで開催された IEEE BigData 
2019 に参加いたしましたので報告します.この学会はビッグデータに関する様々
な研究を対象とした会議です.ビッグデータ解析技術から基盤,データマネジメ
ントや実応用に至るまで,幅広い研究が発表されていました.メインカンファレ
ンスには53の国から556本の投稿があり,104本(18.7%)がRegular paperとして,
103本(18.5%)がShort paper として採択されています.また同時に40個のワー
クショップも開催されており,多くの方が参加・発表していました.

キーノートは5件あり,データ活用に関する話題やオープンデータ活用に関する
話題などがありました.データ活用においては,データサイエンスの将来性とと
もに危険性についても言及していました.データサイエンスによる社会問題の解
決・意思決定に当たっては,アルゴリズムだけでなく社会科学や人間科学なども
統合して社会システムを考えて行く必要があるという内容でした.また,オープ
ンデータ活用に関するスピーチでは,DataCommonsについての紹介がありました.
異なるデータソースにおける似たようなエンティティを関連付け,APIなどで使
いやすいプラットフォームにすることでオープンデータの活用を促進して行くと
いう内容でした.

一般セッションの発表では様々なテーマの発表がありましたが,人間とシステム
の協働に着目した研究と,大量データを処理する仕組みについての研究について
簡単に紹介させていただきます.人間とシステムの協働に着目した研究では,い
かにして効果的なデータ活用のワークフローを構築するかといった研究や,災害
の際などに誤った情報が流れてしまう事態をアルゴリズム面と人間によるフォロー
からどう仕組み化するかといった研究などがありました.大量データを処理する
ための仕組みでは,様々な企業が成長の過程で採用しているアーキテクチャの紹
介や,複雑なアルゴリズムをいかにして分散して効率的に処理するかといった研
究などがありました.その他多くのワークショップ・セッションでビッグデータ
活用観点で数多くの研究が発表されており,データ活用に必要な内容を幅広くカ
バーしているのがBigDataの特徴として感じました.

今回私はRegular paperに採択していただき,その発表をしてきたので簡単に紹介
させていただきます.タイトルは「Detecting Model Changes and their Early 
Warning Signals Using MDL Change Statistics」で,クラスタリングのクラス
ター数に着目し,その変化度合いを数値化する指標を提案しています.これによ
り,徐々に変化するデータに対して明確な変化点とその前に起こる漸進的変化の
警戒信号を捉えることができるという内容となっています.

ビッグデータに関連する多くの分野の動向を知ることができる会議となっている
ので,ご興味ある方はぜひ投稿や参加をご検討いただければと思います.

(平井 聡 東京大学大学院 情報理工学系研究科 山西研究室)


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■5■ The Web ConfとACM HypertextのTown Hallミーティング報告

時期を逸してしまい既に少し古い話なのですが,2019年5月にSan Franciscoで
開催されたThe Web Conference(2018よりWWW Conference から名前が変わっ
ています)と2019年9月にドイツのHofで開催されたACM Conference on
Hypertext and Social Media(こちらの会議名も変遷があって,2012年から現
在の名前です)に参加した際に,会議の運営などに関する議論を行うTown
Hallミーティングをのぞいてきましたので,その際に聞いた話を紹介させてい
ただきます.

A. The Web Conference

1. The Web ConferenceのACM会議化の検討

The Web Conference では,ACM SIGWEB主催の会議となることを検討している
そうです.この話を説明していたWendy Hallさんが,「今日のこの後も,
SIGWEBのchairと話をするんだ」と言っておられました.利点は,財政的に安
定し,それによって開催地選択の自由度が上がることや,ACMという名前によ
るvisibilityの向上などだそうです.The Web Conference側にとっての譲れな
い条件は,論文のopen accessを維持することだそうですが,これは問題なさ
そうだという話でした.

2. Lyon での隔年開催の検討

2007年から2019年までの会議参加者は以下の通りだそうです.

2019 1417 San Francisco
2018 1685 Lyon
2017  762 Perth
2016  731 Montreal
2015  824 Florence
2014 1070 Seoul
2013  868 Rio
2012 1142 Lyon
2011  487 Hyderabad
2010  674 Raleigh
2009  652 Madrid
2008  753 Beijing
2007  796 Banff

これらの中で,2018と2012の開催地であるLyonはたいへん人気があり,Lyonで
開催すると参加者増が期待できるとのことです.そこで,二年に一回,Lyonで
開催することを真剣に検討しているそうです.その利点は,Lyonの年に収益が
上がるので,そうでない年の開催地選択の自由度が上がること.日本では,
DEIMにおいて参加者増により開催地の選択の自由度が下がっていますが,
The Web Conferenceも参加者の多い会議ですので,開催地の選択には苦しんで
いるのかもしれません.

参加者に,この案に賛成か反対かで手を挙げさせていましたが,賛成が多数派
でした.少数ながらいた反対の人の一人に登壇者が「なぜ?」と聞いたところ,
「自分はフランス人だから」という回答.

なお,現在のThe Web Conferenceは論文数が増えすぎたからか,full paperで
採択されても,口頭発表ができるとは限らず,ポスター発表のみになる場合も
ある状態になっています.

3. 名前の変更

前述のように,2018年よりThe Web Conferenceに名前が変わっていますが,こ
れは主に「#WWWというハッシュタグが他の意味でも使われていて会議の宣伝に
使えないから」ということのようです.これまでは,年ごとに「#WWW2019」な
どのハッシュタグを使っていたが,これからは「#TheWebConf」が使われると
のこと.ただし,これまでとの継続性のためにproceedingsの略称にはWWWが引
き続き使われるとのことです.

4. 問題のある査読者と著者,single/double blind review

The Web Conferenceレベルの会議でも,査読を提出しない無責任な査読者や,
self plagiarismあるいはもっとひどいことをする著者がたくさんいるそうで,
それをどうやって防ぐべきかということが議題に挙げられていました.「有名
な著者でも,ひどいことをする人がたくさんいる」とのことです.single
blind reviewとdouble blind reviewについても多少議論がされていました.

5. Town Hallミーティングで取り上げられていなかった話題

上記以外の話題で,今年のThe Web Conferenceから大きく変わったこととして
は,poster paperの募集がなくなり,代わりにshort paperが導入され,また,
full paperで投稿したものの一部をshort paperとして採択するということも
始まったのですが,これについては,会議のOpeningの方では少し触れられて
いたものの,Town Hallミーティングでは特に議論されませんでした.The Web
Conference 2020では,poster paperが復活しているようです.一方,short
paperも引き続きあるようです.

B. ACM Conference on Hypertext and Social Media

こちらは,それほど,ご紹介する話題はなく,The Web Conferenceから4か月
が経っていたので,The Web ConferenceのACM化の話がどうなっただろうと思っ
てのぞきに行ったのですが,その話は現在も議論中だという説明で,特に進展
は感じられませんでした.しかし,議論が継続中ではあるようです.

以上です.研究とは関係ない話題ばかりで恐縮ですが,何かのご参考になれば
幸いです.

(田島 敬史 京都大学大学院 情報学研究科 教授)


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■6■ VLDBへの道(その6) 天方 大地 (大阪大学),佐々木 勇和 (大阪大学)   

今回のVLDBへの道では,VLDBに採択された研究者(20年以内くらい)にアンケー
トを実施し回答を頂きました.アンケートは8問で,5名の研究者(藤原靖宏様,
井上 拓様,肖 川先生,鬼塚 真先生,塩川 浩昭先生)に回答頂きました.
VLDBの影響力と共にその難易度もわかるかと思います.

Q1. VLDBに採択された年・論文を教えて下さい
Q2. VLDBを目指した理由を教えて下さい.
Q3. VLDB採択に向けて工夫された点・必要な点を教えて下さい.
Q4. VLDBの難易度について,肌で感じたもの・イベントがあれば教えて下さい.
Q5. VLDBと他の会議(異分野も可)との違いがあれば教えて下さい.
Q6. VLDB採択後に何か(研究者人生において)変化がありましたか?
Q7. VLDBに参加してよかったと思う点があれば教えて下さい.
Q8. 現在(または今後)VLDBを含むデータベース分野のトップ会議に取り組んで
  いる(取り組む予定)方々へメッセージをお願いします.

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NTT研究所 藤原 靖宏様,

Q1. VLDBに採択された年・論文を教えて下さい
A1. 2012年,Fast and Exact Top-k Search for Random Walk with Restart
  2014年,Scaling Manifold Ranking Based Image Retrieval
  2016年,Fast Algorithm for the Lasso based L1-Graph Construction

Q2. VLDBを目指した理由を教えて下さい.
A2. 以下は特に初めてVLDBに採録された時について回答差し上げます.
  研究所でDBを研究する部署に配属されてからSIGMODとVLDBはいつかは通した
  いと憧れる国際会議でした.
  自分の研究範囲はデータマイニングや機械学習などややDBから離れていて,
  必ずしもVLDBのフォーカスとはあっていませんでした.
  しかし研究所の諸先輩方達も同様にVLDBに向けて論文を投稿していたので,
  自分も論文を何度も投稿していました.

Q3. VLDB採択に向けて工夫された点・必要な点を教えて下さい.
A3. 一言でいうと徹底的にやりきることが必要だと思います.
  研究の手法としては複数の手法を組み合わせて性能をだすというよりは,
  一つの手法を深堀りして技術的な深さを出すことが必要だと思います.
  また実験も徹底的に行うことが求められるので複数の実験条件やデータセッ
  トを試して網羅的な結果を論文に記載する必要があると思います.

Q4. VLDBの難易度について,肌で感じたもの・イベントがあれば教えて下さい.
A4. DB以外のマイニングや機械学習などのトップ会議と比較してVLDBは非常に
  難易度が高いと思います.
  他の会議だと論文の紙幅がそれほどないので一つの研究アイデアがあれば
  論文にすることができますが,DB系の会議は研究の質・量ともに他の会議
  より高いレベルが求められるので簡単に採録とならないと感じます.

Q5. VLDBと他の会議(異分野も可)との違いがあれば教えて下さい.
A5. 査読者が非常に辛口です.
  VLDBの査読者は基本的に weak reject にすることを前提に論文を読んでい
  て,論文が気に入ると weak accept にする気がします.
  そのためよほどのことがないと accept をつけてくれません.

Q6. VLDB採択後に何か(研究者人生において)変化がありましたか?
A6. VLDB に通す前に KDD に論文を通していたのですが,日本のDBコミュニティ
  であまり自分のことを知っている人はいませんでした.
  しかし VLDB に初めて論文を通した後は多くの人に自分の名前を覚えてもら
  い,日本のDBコミュニティにおける存在感が大きくなったと感じました.

Q7. VLDBに参加してよかったと思う点があれば教えて下さい.
A7. 人脈が広がったと思います.
  何度か VLDB に参加させていただいたのですが,日本の著名な先生方が参加
  されていて,VLDB への参加を通して自分の名前を覚えてもらうことができ
  ました.
  DEIMでも人脈を広げることは可能ですが,DEIMだと自分は数多いる参加者の
  一人に過ぎないので,VLDBに参加するほどは人脈を広げる事ができないと思
  います.

Q8. 現在(または今後)VLDBを含むデータベース分野のトップ会議に取り組んで
  いる(取り組む予定)方々へメッセージをお願いします.
A8. VLDBは他のトップ会議と比較して非常に難しい会議です.
  しかし自分がこれから日本のDBコミュニティで頑張っていこうと思うのであ
  れば非常に通す価値があると思います.
  VLDBは非常に通すのに癖のある会議で何度も不採録になってしまうかもしれ
  ませんが,研究者としての可能性が広がるので是非とも狙ってもらいたいと
  思います.

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IBM 井上 拓様,

Q1. VLDBに採択された年・論文を教えて下さい
A1.
VLDB 2015 (PVLDB Vol.8, No.11) "SIMD- and Cache-Friendly Algorithm for
Sorting an Array of Structures"
http://www.vldb.org/pvldb/vol8/p1274-inoue.pdf
VLDB 2015 (PVLDB Vol.8, No.3) "Faster Set Intersection with SIMD
instructions by Reducing Branch Mispredictions"
http://www.vldb.org/pvldb/vol8/p293-inoue.pdf

Q2. VLDBを目指した理由を教えて下さい.
A2.
・論文の技術内容と会議の内容が一番あっていると思われる会議だったので
・開催地(ハワイ島)

Q3. VLDB採択に向けて工夫された点・必要な点を教えて下さい.
A3.
・自分のバックグラウンドがデータベース分野ではないので,データベース分野
に詳しい方に事前に読んでもらいコメントを貰った.

Q4. VLDBの難易度について,肌で感じたもの・イベントがあれば教えて下さい.
A4.
・特に思いつきません.規模の大きさは全体で感じました

Q5. VLDBと他の会議(異分野も可)との違いがあれば教えて下さい.
A5.
・提出の機会が毎月あるので,便利な半面,提出をずるずると伸ばしてしまいがち

Q6. VLDB採択後に何か(研究者人生において)変化がありましたか?
A6.
・会議でDBコミュニティの方と知り合う機会が得られた.

Q7. VLDBに参加してよかったと思う点があれば教えて下さい.
A7.
・A6と同じ

Q8. 現在(または今後)VLDBを含むデータベース分野のトップ会議に取り組んで
  いる(取り組む予定)方々へメッセージをお願いします.
A8.
・難易度が高いと身構えずに,挑戦してみると良いと思います.

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大阪大学 肖 川先生

Q1. VLDBに採択された年・論文を教えて下さい
A1.
1. Pigeonring: A Principle for Faster Thresholded Similarity Search. VLDB 2019.
2. A Partition-based Approach to Structure Similarity Search. VLDB 2014.
3. Efficient Error-tolerant Query Autocopletion. VLDB 2013.
4. Ed-Join: An Efficient Algorithm for Similarity Join with Edit
Distance Constraints. VLDB 2008.

Q2. VLDBを目指した理由を教えて下さい.
A2. VLDBはデータベース分野のトップ会議です.ICDEは最近地位が下がっているの
  で,SIGMODやVLDBへ投稿したほうがいいと感じます.

Q3. VLDB採択に向けて工夫された点・必要な点を教えて下さい.
A3.
1. 問題の重要性
2. 方法の創造性と深度
3. 理論的な優越性
4. 実験の十分性
5. 文章の品質
採択率向上に関してはDEIM 2019のBoFセッションで発表しました.ご連絡いた
だければ,スライドをお送りいたします.Email: chuanx [at] ist.osaka-u.ac.jp

Q4. VLDBの難易度について,肌で感じたもの・イベントがあれば教えて下さい.
A4. SIGMODより少し簡単で,ICDEよりかなり難しいと感じます.

Q5. VLDBと他の会議(異分野も可)との違いがあれば教えて下さい.
A5. SIGMODは主にデータベースコアですが,VLDBはSIGMODより範囲が広いと感じ
  ます.

Q6. VLDB採択後に何か(研究者人生において)変化がありましたか?
A6. 現在は日本で最も良いデータベース研究室の一つで研究しています.より多
  くの論文をSIGMODやVLDBに投稿したいと考えています.

Q7. VLDBに参加してよかったと思う点があれば教えて下さい.
A7. 世界トップのデータベース研究者と交流し,訪問や論文共著の機会を得るこ
  とができます.

Q8. 現在(または今後)VLDBを含むデータベース分野のトップ会議に取り組んで
  いる(取り組む予定)方々へメッセージをお願いします.
A8. SIGMOD + VLDBに採択された日本の論文数は徐々に減少しています.大きな
  コミュニティ(DEIMは毎年論文数300本以上)なので,優秀な研究者も多く,
  SIGMODやVLDBにより多くの論文を投稿し,日本からの論文を毎年10本ぐらい
  発表できれば,日本の影響力を確立できると思います.

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大阪大学 鬼塚 真先生,

Q1. VLDBに採択された年・論文を教えて下さい
A1.
Makoto Onizuka, Hiroyuki Kato, Soichiro Hidaka, Keisuke Nakano, Zhenjiang Hu:
Optimization for iterative queries on MapReduce. PVLDB 7(4): 241-252 (2013)

Q2. VLDBを目指した理由を教えて下さい.
A2.著名な会議であり影響力があるため.

Q3. VLDB採択に向けて工夫された点・必要な点を教えて下さい.
A3.
・提案手法が斬新であることを説明するシナリオ(1章)作り
・取り組んだ内容をすべて組み込む
・主張したい点を詳しく書く
・理論的背景を明らかにする
・くまなく実験を実施する
・大規模データ・大規模な計算機環境で実験する

Q4. VLDBの難易度について,肌で感じたもの・イベントがあれば教えて下さい.
A4.
・レビューに対する対応

Q5. VLDBと他の会議(異分野も可)との違いがあれば教えて下さい.
A5.
・高い技術noveltyが求められる
・くまなく評価実験が求められる
・ページ数が多い

Q6. VLDB採択後に何か(研究者人生において)変化がありましたか?
A6.
・企業から大学への転身がしやすくなった?
・海外研究者からのコンタクトが増えた

Q7. VLDBに参加してよかったと思う点があれば教えて下さい.
A7.
・海外の研究動向および最先端の研究動向が把握できる.
・知り合いが増える.知り合いとのつながりが強化できる.

Q8. 現在(または今後)VLDBを含むデータベース分野のトップ会議に取り組んで
  いる(取り組む予定)方々へメッセージをお願いします.
A8.
若い時にこそ難しい課題にチャレンジし続けて自分の可能性を広げるとともに,
革新的な技術を生みだそう!

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筑波大学 塩川 浩昭先生,

Q1. VLDBに採択された年・論文を教えて下さい
A1.
VLDB2015の"SCAN++: Efficient Algorithm for Finding Clusters, Hubs and
Outliers on Large-scale Graphs"です.


Q2. VLDBを目指した理由を教えて下さい.
A2.
理由は2つあります.1つ目の理由は博士号取得のためです.VLDBに論文を投稿し
た当時,博士課程に在籍していました.他の研究者に読んでもらえるような博士
論文にするためにも,トップ会議に採択された内容で博士論文をまとめたいとい
う想いがありVLDBに挑戦しました.

2つ目の理由は今後のキャリアを考えるためです.投稿当時の私は今後の自分の
キャリアとして研究を続けるのかどうか考える時期でもありました.無謀なこと
に,当時の私は30歳までにVLDB・SIGMOD・ICDEのいずれかに主著で論文を通すこ
とを研究を仕事として続けるための条件として考えており,自分の可能性を示す
ためにもVLDBを目指していました.


Q3. VLDB採択に向けて工夫された点・必要な点を教えて下さい.
A3.
シンプルだが隙の無い論文にすることに心血を注ぎました.ともすれば,「実験
結果が良いから提案手法は素晴らしい」という論文を書いてしまいがちです.で
すが,VLDBではそのような論文は山のように投稿されるため,それだけで採択を
もらうのは難しいと考えます.私は問題に対して非常にシンプルなアルゴリズム
を提案し,理論的な裏付けをしっかり与えることで,査読者に面白いと思っても
らえるよう工夫をしました.実際に査読では「アルゴリズムがcuteで素晴らしい」
と,高く評価していただけたと考えています.


Q4. VLDBの難易度について,肌で感じたもの・イベントがあれば教えて下さい.
A4.
これまでAI系を始めとする様々な分野に投稿してきましたが,VLDBはその中でも
トップクラスに難易度が高かった様に感じました.VLDBは手法の面白さや深さが
評価される傾向にあり,実験結果の良さだけで採択まで押し切れることはあまり
多くないと思います.既存手法に性能で上回っているのは当然であり,そのうえ
で提案手法がどの様な新しい知見をもたらすのかが強く問われます.


Q5. VLDBと他の会議(異分野も可)との違いがあれば教えて下さい.
A5.
これは研究トピックによっても異なると思いますが,私のこれまで経験したトピッ
クでは,異分野の会議の多くにおいて実験結果のインパクト・面白さが評価につ
ながる事が多い印象です.これに対して,DB系のトップ会議(特にVLDBとSIGMOD)
は手法の内容がより重視される傾向にあると感じています.単純に性能が良いだ
けではあまり評価してもらえず,手法が新しい知見や新しい発見をもたらしてい
ることが大事です.


Q6. VLDB採択後に何か(研究者人生において)変化がありましたか?
A6.
いくつかの変化がありました.まずは,無事に博士号を取得することができまし
た.予備審査や公聴会においても,VLDBに採択された内容は非常に面白いと評価
していただき,ホッとした思い出があります.VLDBに採択されたおかげもあり,
現在も研究者として仕事を続けることができています.Q2に回答したように,
(無謀にも)VLDBを一種の試金石と考えていたため,VLDB採択は研究者人生にお
いて「最先端で戦っていける」という自信に繋がりました.

また,VLDBの影響は思っていたよりも大きく,国際会議に参加した際に「あの論
文は面白かった」と声をかけていただくことや,海外の研究機関からお誘いをい
ただくことも何度かありました.こういった経験は他の会議ではあまり味わった
ことはありません.


Q7. VLDBに参加してよかったと思う点があれば教えて下さい.
A7.
Q6.で回答したように研究者人生に大きな変化があった点が良かったと思います.
また,採択に際して,指導教員であった北川博之先生が非常に喜んでくださった
ことも当時良かったと思った点です.


Q8. 現在(または今後)VLDBを含むデータベース分野のトップ会議に取り組んで
  いる(取り組む予定)方々へメッセージをお願いします.
A8.
DEIMで発表される論文の内,何%かはVLDBにも挑戦できるだけの内容があると思っ
ています.
実際に,私の採択された論文はDEIMで発表したものをReviseしたものです.
ぜひ多くの研究者(特に若い方)に挑戦していただきたいと思っています.


(佐々木 勇和 大阪大学,天方 大地 大阪大学)

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Tadashi Murakami <tadashi.murakami [at] kek.jp>
Computing Research Center,
High Energy Accelerator Research Organization (KEK)