学会員メーリングリストアーカイブ (2013年)

DBSJ Newsletter Vol. 6, No. 3: WWW2013


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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2013年8月号 ( Vol. 6, No. 3 )
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記録的な大雨や高温が続いていますが、会員の皆様にはいかがお過ごしでしょう
か。被害に遭われて皆様に心からお見舞い申し上げます。最近の天気予報では、
「想定外」と言わずに「50年に1回程度」というような表現が使われています。
想定外すなわち『お手上げ』ではなく、想定の範囲を広げ、想定を越えても破綻
しないようにすることが、研究者・技術者が求めている未来なのだなと強く感じ
ます。

本号では,Webに関する最重要会議であるWWW2013に参加された、フレッシュな若
者2名に参加報告、ならびに所感を語っていただきました。次回はお隣の韓国で
開催とのことでもあり、是非とも今から投稿予定リストに加えられることを期待
いたします。

本号ならびにDBSJ Newsletterに対するご意見,あるいは次号以降に期待する内
容についてのご意見がございましたら,news-com [at] dbsj.org までお寄せください.

                                日本データベース学会 電子広報編集委員会

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目次
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1.WWW 2013 参加報告 
  清水 敏之 京都大学 情報学研究科 社会情報学専攻

2.WWW2013ワークショップを経験して  
  大澤 昇平 東京大学 東京大学大学院 工学系研究科 松尾豊研究室

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■1■ WWW 2013 参加報告 清水 敏之(京都大学 助教)

●会議名:The 22nd International World Wide Web Conference(WWW 2013)
 日時:2013年5月13日〜17日
 場所:Rio de Janeiro, Brazil
 URL :http://www2013.org/


5月13日から17日にかけてブラジルのリオで開催されたWWW 2013に参加いたしま
した。私はWWWへの参加は初めてでしたが、ウェブ分野のトップカンファレンス
ということでワークショップやチュートリアルも多く、充実した会議でした。会
議中や会議後に発表された統計を見てみますと、採択率は15%(125 accepts /
831 submissions)、参加者は1,107名(日本からは20名)だったようです。

今回はブラジルでの開催ということで日本からの参加は移動が少し大変でしたが、
会場のWindsor Barra Hotelは海沿いで、すぐそこにビーチがある美しい場所で
したし、食べ物もおいしく、また、少し不安であった治安面も普通に気を付けて
いれば大丈夫な印象で、よい場所だったと思います。会議は基本的に午後から開
始される構成になっており、午前中は空き時間だったのには少し驚きました。

キーノートとしては、Luis Von Ahn先生の話が印象的でした。彼はクラウドソー
シングの先駆者ということで、人間証明のためのCAPTCHAの仕組みを文字列解析
のために利用するreCAPTCHAについてや、言語学習を翻訳のためにも利用する
Duolingoに関して紹介されていました。多くの人間をうまくシステムに取り入れ
るデザインが非常に面白いと思います。また話も非常に上手で、CAPTCHAを使っ
たジョークを交えて話されていたのも印象的であった一因です。

全体的な発表の印象としては、やはりSocial Networkやそれに関連してグラフ解
析に関しての発表が多かった印象です。例えば、best paperであった"No
country for old members: User lifecycle and linguistic change in online
communities"というタイトルの研究では、コミュニティ内で使われる言葉の変化
(昔は"Aroma"という語が使われる傾向だったが"Smell"が使われるようになって
きた、など)に着目し、ユーザのコミュニティへの参加時期などを踏まえて解析
するといった話で、面白い着眼点の研究だったと思います。

また、初日と二日目にあったワークショップやチュートリアルではLinked Data
に関するものが多かった印象です。Linked Dataに関しては追っていく必要があ
るなと感じました。

今年は地球の裏側での開催でしたが、来年は韓国で開催されるとのことで、一気
に近くなり、投稿、参加もしやすくなるのではないかと思います。

(清水 敏之 京都大学 情報学研究科 社会情報学専攻 助教)

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■2■ WWW2013ワークショップを経験して  大澤 昇平(東京大学 博士後期課程)

今回、私は5月にブラジル、リオデジャネイロで開催された22nd International
World Wide Web Conference(WWW2013)に参加しました。WWWは、ウェブに関する
学会の中では最高峰であるといわれています。私の所属する研究室からは残念な
がら本会議に採択された論文はなかったものの、ワークショップとポスターのそ
れぞれに1本ずつ論文が採択されました。私は、ワークショップに筆頭著者とし
て論文が採択されました。私は、WWWの本会議に論文を採択されることが博士課
程で達成したいことの一つでしたが、心ならずも今年度の本会議には不採択とな
りました。そこで、原稿を修正し、ワークショップに投稿をし直しました。ワー
クショップ論文は本会議ほど大きな研究実績にはならないですが、トップカンファ
レンスの場を経験することが、必ず今後の研究活動の糧になるのではないかと思
い、投稿しました。

実際に学会に参加してみると、予想通りのすばらしい体験でした。トップカンファ
レンスに参加しなければ得られない点には二つあると思います。一つは、著名な
研究者達との出会いです。まず、交流する人は著名な研究者達ばかりであること
が印象的でした。レセプションで名刺を受け取った方々の実績をホテルで調べて
みて、大体の方が1年に10本以上と、非常に速いペースで論文を発表しているこ
とに驚きました。もう一つは、暗黙知的な学会の問題意識の獲得です。これまで
は、学会のコミュニティが共有する問題意識をよく理解しておらず、的を外した
原稿を執筆していました。しかし、学会の場では、研究者に対して直接口頭で質
問したり、プレゼンテーションを聞いたりすることができます。そのため、その
分野の研究者が何を感じるか、すなわち査読者が何を問題意識に感じているかを
理解することができました。このような学会の問題意識は、明示的に示されてい
ないことがほとんどだと思います。

今回の招待講演は、ウェブの産みの親と呼ばれるティム・バーナーズリーと、ソー
シャルネットワークを中心に研究を行っている数学者のジョン・クラインバーグ
によるものでした。どちらも、ウェブ研究者のコミュニティでは知らない人がい
ないくらい、大きな功績を残した人物です。ティムの講演は、デジタル著作権管
理に関するもので、権利者と不正利用者の間のイタチごっこをなくすためには、
デジタル著作権管理ツールをオープンソース化し、より多くの開発者がコミット
できる状態でなければいけないという提言を行いました。クラインバーグは、自
身のネットワーク研究の軌跡について紹介を行っておりました。プレゼンテーショ
ン資料に含まれるネットワークの可視化が今まで見たどんな図よりも明快である
ことが、本人の研究者としてのバイタリティの高さを物語っていました。会場で
は、中国からの参加者が3分の1前後を占めており、近年の経済成長を象徴してい
るようでした。今回は、中国からは30本以上のフルペーパーが採択され、大健闘
だった一方で、日本からは1本もフルペーパーが採択されていません。中国から
採択された論文は、どれもロジックの構成が明快で、実験が丁寧に行われており
ました。

今回参加したセッションは、ソーシャルネットワークの分析手法、リンク予測、
ウェブの不正利用対策などです。これらの中で特に盛り上がっていたのは、ウェ
ブの不正利用に関する対策のセッションにおける、ダビデ・カナーリらによる研
究発表です。この研究発表は、コンプロミスト・ウェブサイトと呼ばれる、ユー
ザをフィッシングサイトに誘導する有害なサイトをホスティング業者が検出する
ための技術を提案するものでした。予稿がベストペーパー候補に選ばれていると
いうこともあってか、部屋には多くの参加者が詰めかけていました。また、ソー
シャルネットワーク分析のセッションでは、ある大手IT系企業が運営している
SNSを挙げ、それがなぜ流行しないのかを考察をした研究もありました。手法自
体は新しいものではないものの、得られた知見は今後他の企業がSNSを運営して
いく上で重要であり、産業的な意義は大きいと思われます。このように、WWWは
IT産業への貢献にも、他の学会と比較してウェイトを置いているように感じまし
た。実際、私は参加しなかったものの、ウェブサービスの開発環境に関する論文
を取り扱うセッションもありました。今回の学会では、研究者との出会いやコミュ
ニティ意識など、数多くのことを持って帰ることがきました。学会に参加し、雰
囲気を肌で感じることが、自身の研究活動への先行投資になると、今回のWWWへ
の参加を通して感じました。初めて投稿する学会の場合は、たとえ学会から不採
択になっても、諦めずにワークショップやポスターセッションに投稿し、発表す
ることも、ときには重要だと思いました。

(大澤 昇平 東京大学大学院工学系研究科 松尾豊研究室 博士後期課程)