日本データベース学会

日本データベース学会 Newsletter 2023年7月号 ( Vol. 16, No. 3 )

目次

  1. 日本データベース学会若手功績賞

    1. 日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜人とのつながりに支えられて〜
      神崎 映光 (島根大学 教授)
        
    2. 日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜データベースコミュニティへの感謝と貢献〜
      義久 智樹 (滋賀大学 教授)
        
    3. 日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜改めて実感するコミュニティのありがたさ〜
      湯本 高行 (兵庫県立大学 准教授)
        
  2. 日本データベース学会上林奨励賞

    1. 日本データベース学会上林奨励賞を受賞して
      Seng Pei Liew (LINE株式会社)
        
    2. 日本データベース学会上林奨励賞を受賞して
      李 吉屹 (山梨大学大学院 助教)
        

1.日本データベース学会若手功績賞

日本データベース学会若手功績賞は、本会の活動に多大なる貢献をしてきた若手会員を賞するもので、本会の対象とする研究分野において優れた実績を有する場合もその対象となります。

表彰規定や歴代の受賞者は以下のWebページからご確認いただけます。
日本データベース学会若手功績賞:http://dbsj.org/overview/award/#award_03


1-1.日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜人とのつながりに支えられて〜

神崎 映光 (島根大学 教授)

若手功績賞という大変栄誉ある賞をいただき、大変光栄に存じます。

受賞にあたり、私自身とデータベースコミュニティとの関わりを振り返ってみたところ、2008年3月のDEWSにてプログラム委員長補佐として参加したことがはじまりでした。博士号を取得したのが2007年で、学生の頃はネットワークの研究に取り組んでいたこともあり、学会運営に参加させていただく前に自身の研究に関する発表などは一切行っていなかったようです。2005年に大学教員となって以降、指導する学生による発表は行ってはいたものの、自分自身が発表者となったのは2008年9月のiDBフォーラムだったようで、研究者としての貢献がほぼないままコミュニティに迎え入れていただいたことになります。にも関わらず、研究、学会運営の両面でコミュニティの皆様に刺激をいただき、大変貴重な経験を数多くさせていただきました。研究者としてだけでなく、一個人としても、データベースコミュニティと関わりをもてたことは人生の大きな財産であると感じています。この場をお借りして、関わっていただいたすべての方に深く感謝申し上げます。

本賞は、3年ぶりに現地開催されたDEIMでの授賞式にて授与いただきました。コロナ禍でオンライン中心での学会参加が続いていましたが、久しぶりの現地参加で栄誉ある賞をいただき、久しぶりに対面でお会いできたコミュニティの皆様とこの喜びを分かち合えたこと、大変嬉しく思います。情報技術が発展していく中でも、やはり人と直接会っての交流が大切であることを改めて実感しています。これからもコミュニティの中で多くの方と交流し、多くの方が私にしていただいたように、私もできるだけ多くの方に良い刺激を与えられるよう、研究、運営両面で貢献していきたいと思います。

著者紹介:
神崎 映光 (島根大学 教授)
2002年大阪大学工学部情報システム工学科卒業。2004年同大学院情報科学研究科博士前期課程修了。2005年同研究科博士後期課程中退後、同研究科特任助手、同助教を経て、2014年より島根大学准教授、2021年より同大学教授となり、現在に至る。博士(情報科学)。無線ネットワーク、通信プロトコル、分散処理に関する研究に従事。本会ならびにIEEE、ACM、情報処理学会の各会員。


1-2.日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜データベースコミュニティへの感謝と貢献〜

義久 智樹 (滋賀大学 教授)

この度は、日本データベース学会若手功績賞を頂き、誠に光栄に存じます。ご推薦頂いた方々およびご指導頂きました方々に深くお礼申し上げます。

データベースコミュニティでの活動を振り返ってみますと、学部学生時代のDEWSでの研究発表が初めとなります。ストリームデータ配信の研究をしており、短時間で配信完了する方式を発表しました。セッション中をはじめ、休憩時間や移動中にデータベースコミュニティの先生方と話させていただき、自身の見識を深めると共に、聡明な先生方に憧れておりました。DEWSでは優秀論文賞を頂き、その後ミニサーベイ講演をさせていただきました。緊張しながら学会参加者全員の前で講演したのを覚えております。また、TODで迅速に論文採録を決定頂くことができ、早期に博士号を取得する事ができました。

大学の教員になってからは、お世話になったデータベース分野の発展に貢献しようと思い、ストリームデータに関する研究をさらに推進しました。学会等で多数の先生方と有意義な議論を重ねさせて頂いた結果、IEEEの論文誌や難関国際会議に論文が採択されるに至りました。また、データベースコミュニティの発展にも貢献すべく、日本データベース学会論文誌幹事、DE研幹事、DBS研委員などの学会活動に積極的に取り組んできました。DEIMやWebDBの運営にも携わらせていただきました。SIGMOD日本支部にはVLDBに派遣、参加報告をさせて頂きました。これらのデータベースコミュニティでの活動を通じて、世代や職種を越えて多数の方々と親交を深める機会を頂くことができました。

最近は、データベースコミュニティでこれまでに培った知識を基に研究活動の枠を広げ、ストリームデータの応用に関する研究を主に進めています。データベース分野の研究に携わっていると、データや情報の検索、処理など情報通信基盤に関する多様な知識に触れられます。今後もこの強みと今回の受賞を励みに、より優れた研究成果を創出する所存です。

最後になりましたが、若手功績賞受賞に至る研究をご指導して頂きました恩師の先生方、ご協力いただいた同僚、学生の方々、そして日本データベース学会を支えて頂いている皆様に心より感謝致します。

著者紹介:
義久 智樹 (滋賀大学 教授)

yoshihisa
2005年に大阪大学大学院情報科学研究科を修了し博士(情報科学)号を取得。京都大学、大阪大学を経て2023年より滋賀大学データサイエンス学系教授。この間、カリフォルニア大学客員研究員。専門分野は、IoTデータや映像データ等のストリームデータの応用および配信。これまでに総務省や科学技術振興機構の研究事業の他、企業との共同研究を推進。主な研究業績として、IEEE論文誌やIEEE BigData、Globecom等がある。

1-3.日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜改めて実感するコミュニティのありがたさ〜

湯本 高行 (兵庫県立大学 准教授)

この度は日本データベース学会若手功績賞という栄誉ある賞をいただき,誠にありがとうございます.ご推薦くださった方々をはじめ,データベースコミュニティの皆様に心より感謝申し上げます.大変光栄に感じる一方で,受賞できると思っていなかったため大変恐縮しております.

私がデータベース系の学会に初めて参加したのは2002年7月の夏のデータベースワークショップで,当時は京都大学田中研究室の学生でした.その後,学生として何度も発表させていただきました.そして,気が付けば初めての学会発表から21年ほどが経ち,私も自分の研究室を持って,私が指導する学生が発表するようになりました.私自身だけではなく,学生共々大変お世話になっております.

私は学位取得の直後は兵庫県立大学の工学研究科でデータベース系ではない研究室の助教になり,その研究室の中の1研究グループとして活動しておりました.当時の研究室にも大変お世話になったのですが,分野(と文化)が異なり,戸惑うこともありました.そのような中で,関連分野の研究者の方々からさまざまな知識と刺激をいただけるコミュニティのありがたみを実感できました.

また,大学教員になってからは論文誌の査読や学会運営などにも関わらせていただきました.(私はWebDBフォーラムや連続開催のDBS研究会に関わることが多く,指導する学生もよく発表していたので,特に印象に残っています.)それらの業務に関わる中でも自分自身の学びにつながることが多かったように思います.

このようにデータベースコミュニティの皆様にはお世話になってばかりなのですが,少しでもご恩返しができるように学会運営だけではなく,研究や学生の育成などの面からもコミュニティに貢献できるように精進して参ります.ありがとうございました.今後ともよろしくお願い申し上げます.

著者紹介:
湯本 高行 (兵庫県立大学 准教授)

yumoto
2007年3月京都大学大学院情報学研究科博士後期課程修了.博士(情報学).兵庫県立大学大学院工学研究科助教を経て,2020年より社会情報科学部准教授.現在,情報科学研究科/社会情報科学部准教授.主にテキストマイニング,Webマイニング,情報検索などの研究に従事.日本データベース学会,情報処理学会,電子情報通信学会,ACM,IEEE Computer Society各会員.

2.日本データベース学会上林奨励賞

上林奨励賞は、故 上林弥彦 日本データベース学会初代会長のご遺族からご寄贈頂いた資金を活用し、データベース、メディアコンテンツ、情報マネージメント、ソーシャルコンピューティングに関する研究や技術に対して国際的に優れた発表を行い、かつ本会の活動に貢献してきた若手会員を奨励するためのものです。

表彰規定や歴代の受賞者は以下のWebページからご確認いただけます。
日本データベース学会上林奨励賞:http://dbsj.org/overview/award/#award_04


2-1.日本データベース学会上林奨励賞を受賞して

Seng Pei Liew (LINE株式会社)

It is a great honor for me to be rewarded the Kambayashi Young Researcher Award by the Database Society of Japan (DBSJ).

First of all, I would like to express my deepest gratitude to my great mentors and collaborators, including Prof. Masatoshi Yoshikawa, Prof. Yang Cao, Mr. Takagi, Mr. Kato, Mr. Takahashi and Mr. Ueno. I would also like to thank the individual who recommended me for this prestigious award. I am honored to receive recognition for my research on privacy-enhancing technology, particularly differential privacy, which leads to publication in SIGMOD22 and ICLR22. Let me briefly describe my experience that leads to these research projects.

Working as a researcher in industry, as I gained industrial experience in protecting user privacy, I have come to realize that gaining user trust is also important in practical applications. Particularly, it is difficult to persuade an user to send her (raw) data to a curator as this requires user to trust the curator to handle the data securely. This motivated me to study a decentralized architecture of data anonymization where users collaborate among themselves without requiring a centralized entity. This led me to the proposal of network shuffling, of which the work is published in SIGMOD22.

For my ICLR22 work, I was attempting to improve generative modeling with differential privacy. Previous works mainly focused on utilizing DPSGD, a popular method of guaranteeing privacy by adding noise to gradients at each update. I was somewhat unsatisfied with the use of DPSGD, as noise addition at each update erodes the privacy budget, significantly limiting the number of iteration. What came upon me while surveying the literature was a method that preprocess the data with privacy guarantees to train the generative model. Combining this with the idea of using adversarial training led me to a proposal that overcomes the limitations of DPSGD and performs well empirically.

Here are some of my humble thoughts on doing research. I believe I have benefitted from reading a lot (of research papers), and doing critical assessment on them. Furthermore, formulating the right problem to solve has been important to me (sometimes more important than solving the problem itself). In particular, my ideas of formulating problems have come from reading as well as industrial experience. Finally, one must not forget to have fun and enjoy the process of doing research. I hope these thoughts are somewhat useful to up-and-coming researchers. With this I conclude with: have fun and do great research!

著者紹介:
Seng Pei Liew (LINE株式会社)
2017年東京大学理学系研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。2018年日本電気株式会社中央研究所入社。2020年LINE株式会社入社。差分プライバシー、機械学習などの研究開発に従事。元マリーキュリーフェロー。元日本学術振興会特別研究員(DC1)。


2-2.日本データベース学会上林奨励賞を受賞して

李 吉屹 (山梨大学大学院 助教)

この度は、日本データベース学会上林奨励賞を頂戴し、誠に光栄に存じます。ご指導をしてくださった全ての先生の皆様に、感謝申し上げます。私の研究にご助言をしてくださった多くの先生方、ご協力をいただきました共著者の皆様に、感謝申し上げます。日本データベース学会に感謝申し上げます。表彰選考をご担当していただいた皆様に感謝申し上げます。

私は近年主にクラウドソーシングと自然言語処理の研究に取り組んでいます。そのうち、クラウドソーシング(Crowdsourcing)とヒューマンコンピュテーション(Human Computation)は今回の受賞に関する論文の研究テーマです。クラウドソーシングは、個々の人間の知性によって実現される集合知であり、比較的低コストで大量のラベル付きデータを収集するための重要な手段です。依頼者がタスクを公開し、ワーカー(クラウドソーシングの作業者)にそれを行わせることができるウェブサービスプラットフォームによって実現できます。しかし、クラウドワーカーの能力や勤勉さの違いにより、クラウドソーシングで作成されるラベルの質は多様です。クラウドデータの品質保証と向上するために、クラウドデータの統合方法は重要な手法の一つです。既存研究は主に単一のカテゴリラベルデータ、単純なラベルデータ付きタスク、および比較的高品質のクラウドデータに焦点を当てていますが、私は困難で複雑な実世界のシナリオにおけるクラウドデータの品質保証と向上する問題に取り組みました。具体的には、多様なクラウドデータのタイプ、複雑なクラウドタスクのタイプ、超低品質のクラウドデータ、及びコスト削減の観点から、新しいクラウドデータの統合と品質向上方法、クラウドデータから価値ある情報を高精度で抽出する方法を提案し、既存方法より高い精度を達成した、または既存方法では対処できないシナリオを解決しました。最近、私はクラウドソーシングによるノイズラベルから信頼的深層モデルの学習方法に関する研究に取り組んでいます。ラベル付きデータの質は、人工知能モデルが実世界のタスクでうまく機能するために重要な要素です。この研究では、クラウドソーシングを用いて収集されたノイズの多いデータから、信頼性が高い深層学習法を明らかにするものです。クラウドワーカーの特性、ワーカーの多角的な判断視点、クラウドラベルの品質、実例のコンテキスト内容依存ノイズ、難しいタスクで質が非常に低いデータ、大量のカテゴリや極端アンバランスなカテゴリの性質と関係を理解し、モデル化することで、信頼できる深層学習方法が開発され、安心して信頼性の高い人工知能を利用できる人間中心の人工知能社会実現に貢献できます。

クラウドソーシングに関するテーマで発表した論文の一部と作成したデータリソースを以下のウェブサイトにまとめて共有しています。
https://github.com/garfieldpigljy/ljycrowd

一方、私は近年自然言語処理に関するテーマにも取り組んでいます。一般的な文書の分類、感情分析、比喩認識、言い換え認識、論文の評価予測、科学文献の事実検証など、文書分類問題と見なせる様々なタスクに取り組んできました。実際の応用において、文書分類タスクが直面する複数の困難なシナリオにおいて、複数の根本的な問題を解決するための新しい方法を提案しました。具体的には、階層構造化されたカテゴリを持つマルチラベル分類、各カテゴリにおけるサンプル数の極端アンバランスな文書分類、分類結果と深層学習モデルの解釈可能性、ノイズの多いクラウドデータから信頼性のある深層学習モデルを学習するなど問題に対して、新しい分類方法を提案し、既存方法を上回る性能を達成しました。

自然言語処理に関するテーマで発表した論文の一部は以下のACL Anthologyウェブサイトにリストされています。
https://aclanthology.org/people/j/jiyi-li/

今回の受賞を励みとし、今後もより一層、研究と教育共に、データベースコミュニティに貢献できるよう、精進をしていきたいと考えております。今後とも、ご指導のほどよろしくお願い申し上げます。

著者紹介:
李 吉屹 (山梨大学大学院 助教)
2013年9月京都大学大学院情報学研究科博士後期課程を修了し博士号(情報学)を取得。京都大学情報学研究科特定研究員、山梨大学コンピュータ理工学科特任助教を経て、山梨大学助教となり、現在に至る。この間、理化学研究所客員研究員。主にクラウドソーシングとヒューマンコンピュテーション、データマイニング、自然言語処理、情報検索などに関する研究に従事。日本データベース学会、ACM、ACL各会員。


担当編集委員  北山 大輔 (日本データベース学会 広報委員会、工学院大学)

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