日本データベース学会

日本データベース学会 Newsletter 2024年8月号 (Vol.17, No. 4)

目次

    1. DASFAA 2024 開催報告
      石川 佳治(DASFAA 2024共同実行委員長/名古屋大学)
    2. DASFAA 2024 参加報告
      刘 屹(横浜国立大学)
    3. SIGMOD 2024 参加報告
      木村 元紀(東京大学)
    4. ACM The WebConference 2024 出張報告
      三宅 健太郎(筑波大学)

    本号では国際会議DASFAA 2024の開催報告をご寄稿いただいております。加えて、国際会議DASFAA 2024、SIGMOD 2024、WWW 2024の参加報告もご寄稿いただいております。会議の動向やご自身の研究内容などのご紹介となります。

    本号ならびにDBSJ Newsletterに対するご意見あるいは次号以降に期待する内容についてのご意見がございましたらnews-com[at]dbsj.orgまでお寄せください.

    DBSJ Newsletter 編集委員会(担当編集委員 杉浦 健人)


    1.DASFAA 2024 開催報告

    石川 佳治(DASFAA 2024共同実行委員長/名古屋大学)

     DASFAA 2024国際会議を、7月2日(火)~5日(金)の日程で、岐阜 長良川国際会議場にて開催しました。前回の日本での開催は2010年のつくばでしたので、「そろそろ日本で」との声に応えての開催となりました。当初は5月13日~16日という日程でしたが、ICDE 2024がまったく同じ日程にシフトしてきたため、日程を変更し、異例の7月開催となりました。会場の長良川国際会議場はサイズ的にちょうどよく安価であるため、かなり早い時点で決定しました。なお、その後DEIM 2023が同会場での実施となりましたので、国内の投稿意欲という点では若干マイナスだったかもしれません。

     招待講演はTova Milo、Paolo Papotti、Jeffrey Xu Yuの3名にお願いし、それぞれ異なる立場から興味深いご講演をいただきました。研究論文については、会議が2か月延びたことも理由ですが、投稿数971件と膨大な数になりました。私がプログラム委員長を務めたDASFAA 2010は投稿数250件以下でしたので、かなりの変化です。投稿の大多数が中国からのもので、また、AI・機械学習に関する論文が多かったことが印象的でした。その理由としては、近年この領域の研究者が爆発的に増え投稿先を貪欲に求めていることが挙げられます。また、中国の研究者からの情報によると、中国では最近DASFAAがEDBT、CIKMと同ランクの会議と格上げされたため、DASFAAが恰好のターゲットになっているのではとのことでした。

     会議の登録者数は400名超えで、かなりの参加者を期待していましたが、実際には登録しても来日しなかったり、発表に現れなかったりというケースが多々見られました。AI・機械学習分野の研究者はDASFAAのコミュニティにしがらみがないことが理由と思われますが、この点は残念でした。全員向けのソーシャルイベントとしてはレセプションとバンケットを開催しました。バンケットの出し物としては、郡上踊り、和楽、忍者ショーと盛りだくさんでしたが、なかなかの好評でした。また、VIP向けには鵜飼を催しました。私自身はじめての鵜飼でしたが、
    素晴らしいものでした。今回、観光庁の「国際会議効果拡大実証事業」に採択されたため、これらの一部と一般参加者向けの無料観光ツアーなどを提供できました。

     いろいろ課題は残りましたが、ひとまずはDASFAA 2024が無事開催できてほっとしております。組織委員会の皆様には大変お世話になりました。あらためて深く感謝いたします。

    著者紹介:
    石川 佳治(DASFAA 2024共同実行委員長/名古屋大学)
     1989 筑波大学第三学群情報学類卒。1994同大学大学院博士課程工学研究科単位取得退学。同年奈良先端科学技術大学院大学助手。1999 筑波大学電子・情報工学系講師。2004 同助教授。2006 名古屋大学情報連携基盤センター教授。2013同大学大学院情報科学研究科教授。博士(工学)(筑波大学)。データベース、データ工学に興味を持つ。日本データベース学会、電子情報通信学会、人工知能学会、ACM、IEEE CS 各会員。


    2.DASFAA 2024 参加報告

    刘 屹(横浜国立大学)

     今回、私は岐阜県で開催されたThe International Conference on Database Systems for Advanced Applications(DASFAA)2024に参加しました。DASFAAはデータベースの理論と応用における最新の研究を議論交流する国際会議の一つです。コロナが収まったため、前回と違い、今回は現地だけの開催になりました。

     会場は岐阜県の長良川国際会議場です。過去のDASFAAと比較して最大の722件が投稿され、その内147件がFull Paperとして採択されました。採択率は20.3%という難関国際会議の水準になっています。他にResearch Trackのshort paperが85件、14件のindustrial paper、18件のdemo papersと6件のtutorialがありました。

     今回は多岐にわたるtopicが用意され、会議のセッションはSpatial and Temporal Data、Database Core Technology、Recommendation、Multi-media、Knowledge Base and Graphs、Time Series and Stream Data、Graph and Networkというデータ工学・データベースの伝統的なテーマに加えて、Natural Language Processing、Large Language Model、Emerging Application、Privacy and Security、Hardware Acceleration、Machine Learning、Text Processingのセッションもありました。近年では、大規模言語モデル(Large Language Model:LLM)と生成型AIがすごく話題になったため、LLMに関わっているセッションと研究がすごく人気になった感じがします。

     私が聴講した中で最も印象に残ったのは「To Recommend or Not:Recommendability Identification in Conversations with Pre-trained Language Models」という発表です。この発表は、対話システムにおける推薦の適切性を判断する「推薦識別」タスクを初めて提案し、LLMを利用してその実現可能性を検証しました。特に、従来の研究が「何を推薦するか」に焦点を当てる中で、「推薦するかどうか」という新しい視点を導入し、ユーザーの体験を向上させるための重要な基礎を築いた点が印象に残ります。この発表をきっかけに著者のWangさんと交流する機会を得ました。この研究はXなどのようなソーシャルメディアプラットフォームやAmazonなどのような電子商取引プラットフォームを運営する会社が提供するチャットボードで利用する想定だとWangさんが紹介してくださいました。

     今回、私はMain Conferenceにて「Design of an Electric Vehicles’ Energy Baseline Map and Application for Energy Consumption Analysis」というタイトルで発表を行いました。近年普及しつつある電気自動車(EV)をターゲットにして、EVのユーザの航続距離へ不安を解消する一つの方法を提案しました。我々の研究ではEVのこれからの走行ルートで必ず消費するエネルギーを定量的に評価し、可視化するEnergy Baseline Map(EBM)という概念を導入しました。EVの定速走行時のエネルギー消費は地形の変動に影響を大きく受けるため、EBMは消費エネルギーを地形の影響と反映させて定量化したものといえます。いくつかの道路で精度検証を行った結果、良好な精度が確認できました。

     私にとって国際会議に参加するのは初めての機会でした。良い経験が得られた反面、より一層の努力が必要であることを認識しました。他の発表の中にもスライドの作りに丁寧さに欠けるものが見られました。スライドの文字は「少なく、大きく、簡潔に」を心がけ、一目で何を言いたいのかがわかるようにすることが有効であることを感じました。同様に、発表時の話し方も簡単でわかりやすい言葉を使うべきだと思いました。これにより、非英語母語話者のハンディキャップを大幅に克服できると感じました。

     最後に、今回の会議では、主催者の努力を強く感じました。Coffee breakの会場では美味しい飲み物を用意してくださって、テーブルや設備の配置において入念な準備をしていると感じています。全体的には対話しやすい環境になっていました。研究の議論以外に、今回の開催地である岐阜県にまつわる“信長の野望”というゲームの話題をきっかけとして海外からの参加者と愉快なお話の時間を過ごしました。バンケットでは,会議主催者が日本文化を反映した多くの活動を入念な準備していました。私は高校卒業後に日本に来ましたが、鏡割りのような儀式を見るのは初めてでした。この儀式で開けたお酒を飲んでみました、とても美味しかったです。その後も複数の日本の伝統的な歌や劇の公演がありました。全ての内容を理解できたわけではありませんが、日本に来てから初めてこのような公演を見て、とても面白く感じました。その他に、お弁当やシャトルバス、日帰り旅行など、どれも外国人に対する配慮や日本文化を感じさせるものでした。これらの細部にわたる心遣いのおかげで、私たちはリラックスした優雅な雰囲気の中で学術的な議論や交流を行うことができました。会議を運営した名古屋大学の石川先生、杉浦先生、データベース研究室の皆さん、日本データベース学会の先生方に心から感謝申し上げます。

    著者紹介:
    刘 屹(横浜国立大学)

    liu
    横浜国立大学大学院環境情報学府博士課程後期在学中。2024 年横浜国立大学大学院環境情報学府博士課程前期修了。データベース、電気自動車ライフログシミュレーション・時系列データ分析枠組の研究・開発に従事。日本データベース学会学生会員.情報処理学会学生会員。

    3.SIGMOD 2024 参加報告

    木村 元紀(東京大学)

     2024年6月9日から6月14日まで、チリのサンティアゴで開催されたACM SIGMOD/PODS International Conference on Management of Data(以下、SIGMOD 2024)に参加しました。本会議はデータベース研究者、開発者、実務家のための国際フォーラムであり、最先端のアイデアや成果を発表し、技術やツールを交換する場として非常に重要な位置づけにあります。今年のresearch paperセッションでは768本の投稿のうち213本が採択されました。この採択率は約27.7%であり、昨年の採択数186本(投稿数660本)および一昨年の採択数151本(投稿数514本)と比較しても、SIGMODの重要性と影響力が年々増していることが分かります。

     今年のSIGMODでは、チュートリアルデーを除く全ての日に午前中にアワードトークや基調講演が行われ、午後は様々な発表が行われるという日程でした。CWIのPeter Boncz先生による基調講演「Making Data Management Better with Vectorized Query Processing」では、ベクトル化実行によるクエリ処理の高速化技術を中心に、過去20年間のデータベースシステムの高速化の発展を紹介しており、非常に興味深い内容でした。

     また、全体的な研究発表の印象としては、近年の機械学習技術の発展に伴い、機械学習とデータベースの融合をテーマとした研究が数多く見られました。特に、Learned Query OptimizerやLearned Indexといった機械学習をコアなデータベース要素に適用した研究が多く発表され、今後の機械学習とデータベースの協調的発展を予感させました。

     最後に、今回は聴講という形で参加させていただきましたが、現地で数多くの研究者の方々とお話しする機会があり、次回は自分の研究を発表したいという強いモチベーションを得ることができました。次回のSIGMOD 2025はドイツ・ベルリンで開催される予定です。興味のある方は、論文投稿や参加をぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

    著者紹介:
    木村 元紀(東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻 合田研究室)
     東京大学博士後期課程二年生。データマイニングやデータベースシステムの高性能化に関する研究に取り組んでいる。


    4.ACM The WebConference 2024 出張報告

    三宅 健太郎(筑波大学)

     2024年5月13日〜17日にシンガポールで開催されたACM The WebConference 2024(以下WWW’24)に参加し論文発表を行いましたのでご報告させていただきます。

     WWW’24はインターネットやWeb技術全般に関する難関国際会議の1つです。今回の開催ではオンライン・オフラインを合わせて1300人以上が参加しました。WWW’24はキーノートセッションなど一部はオンライン配信が行われましたが、ポスター発表を含めて対面の形式で行われました。WWW’24ではWhovaというアプリを使用して参加者間の交流やセッションの確認などを行うことができました。私も自身の研究に関心のある方や日本人会など様々なグループで活発な交流を行いました。また、論文の著者は事前に発表論文について3分以内のショートムービーを作成しており、それらも会議期間前からWhovaで閲覧ができました。事前に論文について簡単に動画で把握できるのでポスターセッションを聞きに行く際の参考になり、非常に良い取り組みだなと思いました。また、会議期間中は午前と午後にコーヒーブレイクがそれぞれ1回とランチがあり、5日間で多くの方とディスカッションや交流を深めることができました。

     今回のResearch Track(フルペーパー)は2008件が投稿され405件が採択されました。採択率は20.2%でした。WWWの採択率は概ね10%後半から20%前半であり、例年通りの採択率でした。投稿件数は2023年から比べて6.2%増加しています。

     自分はグラフや社会シミュレーションの研究を主に行っているのもありますが、体感としてグラフと推薦システムに関する研究の発表の多さに目を引きました。また、今年のトレンドとして大規模言語モデルを活用した手法の提案が多い印象を受けました。グラフや推薦システムでもLLMを用いたモデルや手法が多くあり、セキュリティや検索分野の発表でもかなり見受けられました。また、キーノートでもLLMにまつわる法律や倫理に関するセッションがあるなど、大規模言語モデルによってWeb分野の研究もかなり影響を受けている印象を受けました。

     初日と2日目のチュートリアルセッションでは自分が興味のある社会シミュレーション系のチュートリアルを中心に回りました。特に初日に視聴した「Simulating Human Society with Large Language Model: City, Social Media and Economic System」というチュートリアルはLLMエージェントを活用した実社会シミュレーションの例について解説したものです。実際の例としてソフトウェア開発会社における社長やエンジニアなどのロールを持つLLMエージェントが実際にソフトウェアを実装するなどの例を紹介され、最近の言語モデルの発展に衝撃を覚えました。3日目以降は自身のポスター発表を行いながら、ポスターセッションを回って参加者とディスカッションを行いました。

     私が今回発表した論文は「NETEVOLVE: Social Network Forecasting using Multi-Agent Reinforcement Learning with Interpretable Features」は私と同じく筑波大学の伊藤先生、森嶋先生、松本さんとカーネギー・メロン大学のChristos Faloutsos先生との共著論文です。DEIM2023で発表した「マルチエージェント強化学習を用いたソーシャルネットワークの将来予測」を基本的なアイデアに手法を発展させたものがWWW’24で採択されました。提案手法は、様々なソーシャルネットワークにおける人々の行動をよく表現する性質を組み込んだ報酬設計に基づく強化学習によって学習し、将来のソーシャルネットワークを予測するものです。これまでの研究に比べてより少ないパラメータ数で高い精度で予測を行うと共に解釈性を向上させたモデルを提案しました。詳細については論文をご覧頂ければと思います。

     私は国際会議での発表が初めての経験でしたがグラフやWeb関連の様々な手法について知ることができ、大変勉強になりました。今回の発表は英語論文の執筆から発表まで全てが初めての経験で、正直分からないことがたくさんありました。しかし、これまでご指導を頂いた伊藤先生、森嶋先生やDEIMなどでディスカッションをさせていただいた多くの先生・学生のおかげで無事に発表を行うことができました。改めて、皆様に感謝を申し上げます。初めての英語発表で緊張することもありましたが、様々な方とディスカッションをすることができ、今後の研究活動にも良い刺激になったと思います。来年のWWW’25はオーストラリアのシドニーで開催されます。Web関連の技術は移り変わりが早いので、毎年のカンファレンスが新鮮で斬新なものになっていると思います。チャンスのある方は是非参加してみてはいかがでしょうか?

    著者紹介:
    三宅 健太郎(筑波大学大学院 情報学学位プログラム)

    miyake
    2020年に香川高等専門学校を卒業、2024年に筑波大学情報学群知識情報・図書館学類を卒業後、2024年4月より筑波大学大学院情報学学位プログラムに所属。主にソーシャルネットワークの将来予測研究に従事。日本データベース学会に学生会員として所属。

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