日本データベース学会 Newsletter 2025年4月号 (Vol.18, No. 1)
目次
- DEIM 2025 開催報告
牛尼 剛聡(九州大学) - AAAI 2025 参加報告
赤木 康紀(日本電信電話株式会社) - AAAI 2025 参加報告
藤原 廉(大阪大学) - IEEE BigComp2025 参加報告
工藤 雅士(早稲田大学)
本号では、DEIM 2025 実行委員長の牛尼先生によるDEIM 2025開催報告に加え、国際会議の参加報告3件のご寄稿をいただきました。国際会議報告としては、AAAI 2025およびIEEE BigComp 2025の参加報告をご寄稿いただいております。会議の動向やご自身の研究内容などのご紹介となります。皆様の参考となれば幸いです。
本号並びに DBSJ Newsletter に対するご意見あるいは次号以降に期待する内容についてご意見がございましたら news-com [at] dbsj.org までお寄せください。
DBSJ Newsletter 編集委員会(担当編集委員 油井 誠)
1.DEIM 2025 開催報告
牛尼 剛聡(九州大学)
第17回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム/第23回日本データベース学会年次大会(DEIM2025)は、2025年2月27日(木)から3月4日(火)にかけて開催されました。本フォーラムは、DEIM2023から導入された直列ハイブリッド形式にて実施され、2月27日(木)から3月1日(土)まではZoom Eventsを用いたオンライン開催、3月3日(月)と4日(火)は福岡国際会議場にてオンサイト開催を行いました。最終的には、オンラインとオンサイトを合わせて840名の方々にご参加いただきました。
DEIM2025ではトラック制が採用され、「自然言語処理・機械学習基礎」、「ビッグデータ基盤技術・データセキュリティ・プライバシ」、「情報検索・情報推薦・ソーシャルメディア」、「メディア処理・HCI・人間中心情報マネジメント」、「高度なデータ利活用・ドメイン応用(医療情報、教育、地理情報等)」の5つのトラックにおいて、データ工学および情報マネジメントに関する幅広い分野の研究発表が行われました。一般発表の投稿数は429件で、そのうち口頭発表とポスターによるインタラクティブ発表の両方が行われたものが386件(うちデモ発表46件)、口頭発表のみが43件でした。このうち、学生による発表が394件、一般の発表が35件という構成となりました。チュートリアルは5件実施され、そのうち1件は「2024年度 第2回DBSJセミナー」としてオンラインで公開されました。
オンライン開催期間中は3日間にわたり、11パラレル・9タイムスロットに分けて、合計96セッションの口頭発表が行われました。Zoom EventsやSlackの機能を活用することで、柔軟な参加形態のもと活発な議論が行われました。3月2日(日)は移動日とされ、翌3日(月)より福岡国際会議場にてオンサイトプログラムが始まりました。
オンサイト初日となる3月3日(月)には、午前と午後にわたって5件のチュートリアルが行われました。昼には、株式会社日立製作所および株式会社メロンによるランチョンセミナーが開催され、参加者との積極的な交流が図られました。午後後半にはインタラクティブセッションとオンサイトオープニングが実施され、夕方からは3件のBoF(Birds of a Feather)セッションが企画されました。
BoFセッションでは、DBSJ学生企画として「DB談話室〜研究者としての生活の『リアル』〜」が実施され、さまざまな立場で活躍されている研究者の方々が登壇し、研究者としてのキャリアやライフステージについて語るパネルディスカッションが行われました。また、「怪奇!怪文書から読み解く博士課程の生き残り方」と題されたセッションでは、博士課程にまつわる体験談や、インターネット上で話題となっている情報(通称「怪文書」)をもとに、大学院進学を検討している学生や現役院生に向けた貴重な知見の共有が行われました。さらに、プログラム委員長である兵庫県立大学の大島裕明先生が企画された「DEIMの参入障壁を下げるBoF」では、参加者参加型のワークショップ形式により、DEIMをより魅力的な学会とするための多様なアイデアが活発に検討されました。
最終日となる3月4日(火)には、午前中にインタラクティブセッションが実施され、午後には座長・コメンテータ会議、DBSJアワー、そして表彰式・クロージングが行われました。これらのDBSJアワーおよび表彰式・クロージングについては、遠隔地の参加者にも対応できるよう、オンライン配信を併用して実施されました。
DEIM2025は、多くの企業・団体からのご支援をいただきながら開催されました。プラチナスポンサー7件、ゴールドスポンサー15件、シルバースポンサー2件のご協賛を賜り、ランチョンセミナーのご提供もいただきました。多くの方々のご協力のもと、研究発表にとどまらず、世代や所属を越えた活発な交流の場を築くことができました。
オンラインとオンサイト、それぞれの利点を活かした運営により、全国各地からの参加が可能となり、多様な立場の参加者による有意義な議論が展開されました。本フォーラムの開催にあたり、多大なるご尽力をいただいた実行委員、プログラム委員、座長・コメンテータの皆様、そして発表者・参加者の皆様に心より感謝申し上げます。次回のDEIM2026でも、さらなる発展と交流が期待されます。
会場外の風景 ポスターレセプション 会場の様子
著者紹介:
牛尼 剛聡(九州大学)
1999年名古屋大学大学院工学研究科情報工学専攻博士課程後期課程満了.博士(工学).1999 年九州芸術工科大学芸術工学部助手.2011 年九州大学大学院芸術工学研究院准教授.現在,同教授.コンテンツ環境デザイン,Web情報学,インタラクションデザイン等の研究に従事.日本データベース学会,情報処理学会(シニア会員),電子情報通信学会(シニア会員),ACM,人工知能学会,言語処理学会各会員.Asia Digital Art and Design Association 理事.
2.AAAI 2025 参加報告
赤木 康紀(日本電信電話株式会社)
2025年2月25日から3月4日の日程で、人工知能分野のトップカンファレンスである AAAI 2025 (The 38th Annual AAAI Conference on Artificial Intelligence)がアメリカ・フィラデルフィアで開催されました。私は採択された論文を発表するため、現地参加しましたので、その報告をさせていただきます。
今年のメイントラックには12,957件の論文が投稿され(デスクリジェクトされた論文を除く)、3,032件が採択されました。採択率は23.4%でした。そのうち、600件が口頭発表に選ばれ、すべての論文についてポスター発表が行われました。さらに、その中から3件の論文にOutstanding Paper Awardが授与されたほか、現地での投票により3件のポスターにBest Poster Awardが与えられました。
2月25日と26日はチュートリアルデイで、41件のチュートリアル、11件のブリッジセッション(2つ以上の分野を結びつけるためのプログラム)、5件のラボセッション(AIツールの使い方のトレーニングのためのプログラム)が開催されました。3月3日と4日はワークショップデイで、49のワークショップが開催されたようです。筆者はワークショップには参加しなかったため、詳細は把握しておりません。そして、これらに挟まれた2月27日から3月2日までの5日間が本会議でした。
本会議では、メイントラックの口頭発表セッションおよびポスターセッション、そして5件の招待講演が行われました。口頭発表では、機械学習、コンピュータビジョン、自然言語処理、ゲーム理論、知識表現、マルチエージェントシステム、探索や最適化といった幅広いテーマに関するセッションが約12のパラレルセッションで実施されました。
ポスターセッションは毎日12時30分から14時30分の時間帯で行われ、広大な会場に多数のポスターが掲示され、それぞれのポスターの前でコーヒー、レモネード、お茶、軽食を片手に活発な議論が行われていました。また、招待講演では、機械学習分野で有名なAndrew NgによるAIがソフトウェアや製品の開発にもたらす影響に関する講演や、心の哲学で有名なDavid Chalmersによる心の哲学に基づいたAIの解釈可能性に関する講演などが行われました。特にAndrew Ngの講演は早朝にもかかわらず、広い会場が満員になるほど多くの人が集まり、注目度の高さがうかがえました。
今回、私は”A Continuous-time Tractable Model for Present-biased Agents”というタイトルの論文を発表し、口頭発表とポスター発表の両方を行いました。人間は現在バイアスと呼ばれる直近の損得を過大評価するバイアスを持っており、これが長期的な目標達成行動を阻害することが知られています。そのため、現在バイアスを数理的にモデル化し、数理モデル上で現在バイアス下の人間の行動を解析したり、最適な介入策を求めることによって、人間の目標達成を支援することが重要な研究トピックとなっています。
既存研究では、時間を離散的に扱ったモデルが提案されていましたが、離散化幅を適切に決める必要があることや、現在バイアスを特徴づける時間割引関数の種類が限定されるため、表現力が低くなるといった欠点がありました。そこで、変分法による定式化を活用することで、現在バイアス下の人間の行動を分析するための連続時間モデルを新しく提案しました。提案モデルは、離散時間モデルが持つ解析的な取り扱いやすさを維持しつつ、これらの問題点を解決しています。さらに、このモデルを用いてさまざまな介入最適化問題の最適解を解析的に導出し、最適な介入に関する多くの知見を得ることに成功しました。
私の口頭発表はGame Theory and Economic Paradigmsというセッションで行われ、応用先、モデルのモチベーション、今後の拡張などについて多くの質問をいただき、関心を引くことができたという手応えを感じました。
AAAI2026はシンガポールで2026年1月20日から1月27日の期間で開催されます。本学会はこれまで基本的にアメリカまたはカナダで開催されてきましたが、遂にこれまでの開催国以外での開催となります。AAAIは、扱うテーマが広く、発表される論文の本数も多いため、AI分野全体を俯瞰し、自分の興味のある研究分野を探すのに適した会議です。また、日本人の参加者や聴講のみの参加者も多く、国際会議の中では比較的参加のハードルが低いと感じます。ぜひ、来年は現地参加を検討してみてください。
レセプション風景 会議のロゴ
著者紹介:
赤木 康紀(日本電信電話株式会社)

3.AAAI 2025 参加報告
藤原 廉(大阪大学)
アメリカのペンシルベニア州フィラデルフィアにて、人工知能分野の難関国際会議であるAAAI2025 (The 39th Annual AAAI Conference on Artificial Intelligence)が 2025/2/25-2024/3/4の8日間に渡って開催されました。私は採択された論文の発表のため現地参加しましたので、参加報告をさせていただきます。日程は2/25-2/26がチュートリアル、2/27-3/2が本会議、3/3-3/4がワークショップとなっていました。本会議ではメイントラックの口頭発表セッションとともに、10件程度の招待講演、3日間にわたるポスター・デモセッションなどが行われました。今年はメイントラックには 12,957が査読され、3,032件が採択されました(採択率23.4%)。全ての論文についてポスター発表が行われ、選ばれた 600件については口頭発表が行われました。さらに、Outstanding Paper Awardsが3件の論文に対して授与されました。
AAAIと他の学会の大きな違いとして、その扱う分野の広さがあります。コンピュータービジョンや機械学習をはじめとした様々な論文が集まることから、AI分野全体を俯瞰するのに適した会議であると言えます。そのため、現地には様々なバックボーンを持つ研究者や企業のエンジニアが集い、自分の視野を広げる意味でも、参加する価値は非常に高いと感じました。
今年の学会の特色としては、学会側が学生間や学生と企業間の交流を促進することで、学生の研究者としての成長や今後のキャリア形成を手助けしようとしていたように見えました。例えば、企業と学生とを結びつけるJob Fairやフェローとのランチ、学生のみが参加可能なレセプションやボーリング大会などが企画されていました。さらに、学会参加者交流用のアプリ Whovaでも、企業アカデミック問わず、様々なポストの募集が行われていました。
最後に、私が投稿した論文としては、”Modeling Latent Non-Linear Dynamical System over Time Series” が採択されました。本論文は口頭発表に選出されていたため、3/1にポスター発表を行い、3/2の “Data Mining 3” セッションで口頭発表を行いました。本研究は与えられた多変量時系列データを非線形動的システムによってモデル化するための新しい方法を提案したものです。非線形ダイナミクスはしばし急激な変化を伴うため、ノイズと非線形成分の分離が困難になっています。さらに、多変量時系列データのもつ冗長性から、必要以上に複雑なモデルを推定してしまうことがありました。
本研究では、非線形ダイナミクスの分野での知見と時系列データ解析手法である状態空間モデルをもとにした、新しい数理モデルおよびそれを効率的に推定するアルゴリズムによってこれらを解決しています。
AAAI には初めての参加でしたが、研究に関する知見を得られたのはもちろんのこと、様々な企業の方との交流を通して、実社会にはまだまだ解決すべき課題が数多く残されていることを改めて実感できました。このような意味でも、参加して良かったと思います。来年2026年の AAAI は 1/20-1/27にシンガポールにて開催されるようですので、ぜひ参加を検討してみてください。
著者紹介:
藤原 廉(大阪大学)
大阪大学大学院 情報科学研究科 情報システム工学専攻 博士課程3年.2023年に大阪大学大学院情報科学研究科情報システム工学専攻修士課程を修了.同年,大阪大学大学院情報科学研究科情報システム工学専攻博士課程に進学.非線形モデリング,因果推論,ストリーム処理,データマイニングの研究に従事.
4.IEEE BigComp2025 参加報告
工藤 雅士(早稲田大学)
● 会議の概要
2025年2月9日から2月12日にかけて、IEEE BigComp2025(IEEE International Conference on Big Data and Smart Computing)がマレーシア・サバ州・コタキナバルのNexus Resort & Spa Karambunaiにて開催されました。BigCompはビッグデータおよびスマートコンピューティングをテーマとする国際会議であり、今年で12回目の開催となります。本会議では、127本の投稿のうち44本の通常論文(フルペーパーおよびショートペーパー)、17本のポスター論文が採択され、通常論文の採択率は34.6%でした。これは、前回(BigComp2024)の採択率である39.7%よりも低く、難易度がやや上昇したことが分かります。国別の投稿数では韓国が最も多く、全体の4割以上を占め、次いでインド、中国、アメリカからの投稿が続きました。日本からは4件の投稿があり、その内2件(筑波大学、早稲田大学)が採択されました。
● 会場および会議の様子
会場となったNexus Resort & Spa Karambunaiは、コタキナバル空港からタクシーで約50分の距離にあるリゾートホテルです。会議参加者の多くが同ホテルに宿泊しており、館内の各所で活発な交流が行われていました。また、ホテルにはプライベートビーチやゴルフ場が併設されており、会議参加者以外にも韓国や中国からの旅行客の姿が多く見られました。会議の参加者数は約150名で、一部、企業からの発表もありましたが、発表者の大多数は大学院生を中心とする学生でした。発表テーマとしては、近年のトレンドを反映し、人工知能(AI)や大規模言語モデル(LLM)に関連する研究が多数を占めていました。特に、AIの実生活への応用に関する研究が多く見られ、単なるモデルの改良にとどまらず、具体的な活用を意識した研究が多くなっている印象を受けました。中でも私が興味を引かれたのは、英語で訓練されたLLMを他言語に最適化する研究や、食事管理やメンタルケアにAIを活用する研究に関する発表でした。本会議のベストペーパーはソウル大学(Seoul National University, Korea)のSooyeon Hwang氏らによる、会話における感情認識に関する研究でした。本研究では、LLMや深層学習を活用し、会話のテキスト情報に加え、会話時の音声や映像といった性質の異なる情報を統合することで、感情の違いをより明確に捉えるモデルが提案されました。
● 発表について
私は、「eCommTouch: A Benchmark Dataset for Touch-based Continuous Mobile Device Authentication for e-Commerce」というタイトルでフルペーパーの口頭発表を行いました。本研究では、スマートフォンのタッチ操作の特徴を利用した認証技術(タッチベース認証)において、既存の公開データセットが抱えるデータ数やストローク方向の偏りといった課題を解決する新たなデータセット「eCommTouch」を提案しました。発表は会議2日目の午前に行われましたが、並行してTutorialが開催されていた影響もあり、セッションの参加者は10名程度でした。発表時間は20分、質疑応答は5分で、2名の参加者から計4件の質問をいただきました。客観的な疑問や意見をもらう貴重な機会となり、今後の研究の方向性について多くの示唆を得ることができました。
● おわりに
IEEE BigComp2025では、AIやLLMの発表が多数を占め、従来のビッグデータ解析を超えた新たなトレンドが形成されつつあること実感しました。次回のIEEE BigComp2026は中国での開催が予定されており、詳細は今後発表される予定です。ビッグデータやスマートコンピューティングの分野に関心のある方は、ぜひ参加を検討されてみてはいかがでしょうか。
採択率 ホテルからの風景
レセプション前の様子 発表の様子
著者紹介:
工藤 雅士(早稲田大学)
2018年早稲田大学基幹理工学部情報理工学科卒業.2020年早稲田大学大学院基幹理工学研究科修士課程修了.現在,同大学大学院基幹理工学研究科博士課程在学中.ヒューマンコンピュータインタラクション,生体認証の研究に従事.
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