日本データベース学会 Newsletter 2026年10月号 (Vol.19, No. 5)
目次
- VLDB 2026 参加報告
Xiao Yunyi(筑波大学) - KDD 2026 参加報告
千原 直己(大阪大学) - SIGIR 2026 参加報告
藤巻 晴葵(筑波大学) - ICML 2026 参加報告
米田 優峻(東京大学)
本号では VLDB 2026,KDD 2026,SIGIR 2026,ICML 2026の4件の国際会議の参加報告をご寄稿いただきました.それぞれの会議の様子や招待講演の内容,ご自身が発表された研究内容などについて紹介していただいております.ぜひご覧いただければ幸いです.
本号ならびにDBSJ Newsletterに対するご意見あるいは次号以降に期待する内容についてのご意見がございましたらnews-com[at]dbsj.orgまでお寄せください.
DBSJ Newsletter 編集委員会
(担当編集委員 伊藤 寛祥)
1.VLDB 2026 参加報告
Xiao Yunyi(筑波大学)
2026年8月31日から9月4日までの5日間、米国ボストンで開催されたVLDB 2026(52nd International Conference on Very Large Data Bases)に現地参加しました。VLDBはデータベース分野におけるトップカンファレンスの一つであり、対象とする研究領域はデータベースに限らず、データマイニング・分析、グラフ・ネットワークデータ、機械学習、AI、ユーザーインターフェースなど、データサイエンス全般に及びます。今回、私は「Efficient Task Assignment for Multi-Workerset Crowdsourcing with Time and Expense Considerations」というタイトルで発表を行いました。ご協力頂いた皆様に感謝を申し上げます。
会議は、2日間のワークショップと3日間の本会議で構成されます。採択論文の著者は、会議において口頭発表とポスター発表の両方を行います。口頭発表を聞いて関心を持った論文や疑問点について、夕方のポスターセッションで著者とさらに議論を深められる、非常に有意義な構成となっていました。3日目の夜に行われたバンケットは、ボストン科学博物館で開催されました。食事を楽しみながら館内を自由に見学できるという趣向で、科学を愛する多くの参加者にとって、心躍るひとときとなりました。昨年、英国ロンドンで開催されたVLDB 2025のバンケットも、ナショナル・ギャラリーで催されたそうです。会議施設ではなく、開催地を代表する博物館や美術館を会場とすることは、VLDBの伝統の一つなのかもしれません。
特に印象に残ったのは、Test of Time Awardのセッションです。この賞は、Tyler Akidauらが2015年にPVLDBで発表した論文「The Dataflow Model: A Practical Approach to Balancing Correctness, Latency, and Cost in Massive-Scale, Unbounded, Out-of-Order Data Processing」に授与されました。同論文では、有限の「有界データ(bounded data)」に比べ、ライブメッセージなどのように継続的に生成され、到着順序も保証されない「非有界かつ順不同のデータ(unbounded, out-of-order data)」が新たな常識になりつつあり、データがいつか完全にそろうのを待つという考え方から脱却しなければならないと論じています[1]。
物事を長い時間軸で眺めると、多くのことが興味深く見えてくるとよくいわれます。私にとって、この受賞セッションには特に興味深い点が二つありました。
一つ目は、著者らが11年前に執筆した論文を振り返り、その主張のうち、何が正しく、何が誤っていたのかを発表したことです[2]。その結果、論文の中核となる考え方はおおむね妥当だった一方、分析のためのインターフェースについては重要な部分を誤っていたことが分かったそうです。第一線で活躍する研究者が、長い年月を経て自らの研究を振り返る姿に触れたのは、今回が初めてでした。研究者としての歩みを始めたばかりの博士課程の学生である私にとって、これは非常に示唆に富む経験となりました。過去の研究を誠実に検証し、誤りを率直に認めるという、この研究分野の文化と姿勢にも深く感銘を受けました。ところで、11年後、私は今回の自分の論文をどのように振り返るのでしょうか。
二つ目は、この論文が最初に投稿された際、非常に率直で、受け止めるのが難しいほど厳しい査読を受けていたということです。中には、この研究を「根本的に新しいものは何もない」と評した査読者さえいたそうです。しかし、2025年には「これほどクラウドデータのあり方を根本から変えた研究は、それ以降存在しない」と評され、今回の受賞に至りました。時の試練に耐えた画期的な研究も、必ずしも当初から完成された形で確立されているわけではなく、時間と労力をかけながら磨き上げられていくものなのだと感じました。また、著者は最初の査読を「厳しさの中に愛情のある指摘(tough love)」だったと振り返り、次のように述べていました。
「優れたアイデアを持っているだけでは、必ずしも十分ではない。そのアイデアがなぜ重要なのかを、時には読者にはっきりと突きつけ、異なるコミュニティーの人々にも響く言葉で伝える必要がある。」
私はこの言葉に深く共感し、まさにそのとおりだと強く感じました。
[1] Tyler Akidau, Robert Bradshaw, Craig Chambers, Slava Chernyak, Rafael J. Fernandez-Moctezuma, Reuven Lax, Sam McVeety, Daniel Mills, Frances Perry, Eric Schmidt, and Sam Whittle. 2015. The dataflow model: a practical approach to balancing correctness, latency, and cost in massive-scale, unbounded, out-of-order data processing. Proc. VLDB Endow. 8, 12 (August 2015), 1792-1803. https://doi.org/10.14778/2824032.2824076
[2] Tyler Akidau, Rafael J. Fernandez-Moctezuma, Reuven Lax, and Daniel Mills. The Dataflow Model Revisited. PVLDB, 19(12): 4953 – 4964, 2026. doi:10.14778/3827998.3838710
著者紹介:
Xiao Yunyi(筑波大学 融合知能デザイン研究室)
筑波大学人間総合科学研究群情報学学位プログラム博士後期課程2年在籍。Human-AI協働によるデータ品質の向上に関心を持つ。
2.KDD 2026 参加報告
千原直己(大阪大学)
2026年8月9日から13日にかけて韓国の済州島にて開催された、データマイニング分野のトップカンファレンスである 32nd ACM SIGKDD Conference on Knowledge Discovery and Data Mining(KDD 2026)に参加しました。今年のリサーチトラックでは、8月と2月の合計で4,164件の論文が投稿され、785件の論文が採択されました。発表形式は、全ての論文に対してポスター発表の機会が設けられた一方で、口頭発表に関してはスケジュールの都合上一部のみでした。
今年からの特色として、AI for Sciences と Blue Sky Ideas が新設され、論文トラックが5つになりました。AI for Sciences は、AI研究者と各科学分野の専門家が協力し、仮説の生成や新たな法則の発見、シミュレーションの高速化などを通じて、科学的発見を後押しすることを目指しています。対象分野の専門家との共著が期待されている点にも、分野をまたぐ協働を重視する姿勢が表れています。一方、Blue Sky Ideas は、今後の研究の方向性を示すような、大胆で挑戦的なアイデアを提案する場として設けられました。
基調講演は3件ありましたが、私が最も印象に残ったのは、Regina Barzilay 氏による「Rethinking disease diagnosis and treatment with AI」でした。講演の前半では、マンモグラフィ画像から将来の乳がんリスクを予測するタスクで良好な成果を収めた事例をはじめ、AI が医学研究や臨床にもたらす変化が具体例とともに紹介されました。一方、創薬については、分子モデリングの進歩や LLM による仮説生成、実験の自動化が、そのまま新たな治療法の発見につながるわけではないとの指摘がありました。とりわけ重要な点は、現在の AI 研究開発が分子設計に集中する一方で、疾患の仕組みを理解し、適切な治療標的を見定める段階に依然として大きな課題が残るという点です。さらに、データ不足や新規の仕組みで働く分子の予測の難しさなど、単に基盤モデルを導入するだけでは解決できない根本課題も挙げられました。
最後に我々の論文 “AdaKoop: Efficient Modeling of Nonlinear Dynamics from Nonstationary Data Streams with Koopman Operator Regression” について簡単に紹介いたします。本研究では、時間とともに性質が変化する時系列データストリームから、複雑な非線形ダイナミクスを効率的に学習する方法を提案しました。クープマン作用素理論に基づいて非線形ダイナミクスを線形システムとして表現することで、効率的かつ安定してデータを逐次学習します。ポスター発表ではストリーム処理等に関心を持つ方々と実りのある議論ができたとともに、関連分野に対する関心の高さを実感できました。
KDD 2027 はアメリカのサンノゼにて2027年8月1日から5日の日程で開催される予定です。興味のある方は論文投稿および参加の検討をされてはいかがでしょうか。
著者紹介:
千原 直己(大阪大学 産業科学研究所 櫻井・松原研究室)
2025年大阪大学大学院情報科学研究科博士前期課程修了。現在、同研究科博士後期課程在籍中。統計的因果推論、時系列解析、特に時間や環境によって性質が変わるデータのための因果探索・推論のための技術の開発に関する研究に従事しています。
3.SIGIR 2026 参加報告
藤巻 晴葵(筑波大学)
2026年7月20日から24日にかけて、オーストラリア・メルボルンで開催された49th International ACM SIGIR Conference on Research and Development in Information Retrieval(SIGIR 2026)に参加しました。SIGIRは情報検索分野を代表する国際会議の一つで、検索やランキング、推薦、評価など幅広い研究が発表されます。SIGIR 2026では、Full Research Paper 234本、Short Research Paper 151本、Industry Paper 131本、Resource Paper 61本、Reproducibility Paper 28本など、合わせて656本の論文が発表されました。今回は「NumColBERT: Non-Intrusive Numeracy Injection for Late-Interaction Retrieval Models」がFull Paperとして採択され、発表する機会を得ました。
NumColBERTは、「売上100億円以上の企業を探す」といった数値条件を含む情報要求を、検索モデルがより正確に扱えるようにする研究です。これまでにも数値条件に対応する手法は提案されてきましたが、検索システムに専用の仕組みを必要とするものも少なくありません。そこで本研究では、既存のMulti-Vector検索モデルであるColBERTの検索パイプラインを変更せず、数値条件への対応能力を高めることを目指しました。過去の研究で既存の検索モデルがどのような数値条件を苦手とするのかを分析しており、今回はそこで明らかになった課題の改善に取り組んだものです。
発表は「Multi-Vector Retrieval」のセッションで行われました。Multi-Vector検索は、クエリや文書を一つではなく複数のベクトルで表現する検索方式です。比較的限定されたテーマだと思っていましたが、それだけで一つのセッションが構成されていたことに、情報検索を専門とするSIGIRらしさを感じました。同じ基本的なアーキテクチャを扱いながら、モデルそのものの効率や表現上の課題を改善する研究、より複雑な検索タスクへ応用する研究など、異なる方向から研究が進められていました。特に前者のような、検索アーキテクチャ自体を深く掘り下げる研究が多かったことが印象に残っています。
もう一つ印象的だったのが、Reproducibilityに関する研究の存在感です。Reproducibility Trackでの研究では、既存研究の結果を再検証し、異なる実験条件でも同様の結果が得られるのか、あるいは別の設定へどこまで一般化できるのかを調べることで、既存手法への理解を深めます。このような研究枠がSIGIRに存在すること自体は以前から知っていましたが、実際に参加すると想像以上の存在感がありました。Reproducibility Paperが特別に切り離されているというより、他の論文と同じセッションに組み込まれ、会場ではFull Paperと同様の形式で発表されていました。新しい手法を提案することだけでなく、既存研究の主張を改めて問い直すことも、一つの研究貢献として自然に受け入れられている点が印象的でした。
次回のSIGIR 2027は、SIGIRの50回目を記念する大会として、2027年7月18日から24日に米国カリフォルニア州サンノゼで開催される予定です。SIGIRは研究者だけでなく、検索や推薦システムを実際に開発・運用する企業の方々にとっても興味深い学会だと思います。今回も日本企業から聴講に来られている方を見かけ、研究発表を目的としなくても、情報検索分野の最新の研究動向やコミュニティの関心を直接知ることのできる貴重な場だと感じました。検索や推薦に研究・実務のいずれかの立場で関わっている方には、ぜひ一度参加してみていただきたい学会です。
著者紹介:
藤巻 晴葵(筑波大学)

4.ICML 2026 参加報告
米田 優峻(東京大学)
私は、今年7/6~12に韓国のソウルで開催された機械学習・AI分野の国際会議 ICML2026 に参加し、ポスター発表を行いました。
発表した研究は、最近開発した大規模パターン検索ツール「SoftMatcha 2」に関するものです。近年、機械学習やLLM開発において、数兆語規模の膨大なデータの中から、ある特定の文字列の出現回数や用例を調べるパターン検索の需要が高まっています。しかし以前の手法には意味的な類似語の検索ができないという問題があります。使い方によっては、たとえば「オリンピック金メダル」と検索した場合、オリンピック銀メダルや五輪金メダルも検索結果に引っかかってほしいことがありますが、既存手法では拾えません。そこで本研究ではその問題に取り組み、1 兆語規模の大規模データに対し、類似度上位 20 件のパターンを 0.3 秒以内に出力することに成功しました。
私はまだ研究歴が1年余りと浅く、国際会議で発表するのが初めてであったため、しっかり自分の研究を伝えられるか不安がありました。しかし、超優秀な共著者の方々のご協力もいただき、現場は開始から終了まで常に3人以上が発表を聞くような大盛況となりました。実際に高速な検索ができるデモを見せたのと、紙で見れるポスターを作成したのが効いたのではないかと思っています。
ところで、実は私の研究室での専門は機械学習ではなくアルゴリズム理論ですので、ICMLに参加して驚いたことが沢山ありました。第一に、他の発表を聞いていると、アルゴリズムと機械学習が両方できる人は研究者としてかなり強いのではないかと感じました。アルゴリズムの経験がどう活きるかについては、もちろんSoftMatcha 2を含め、アルゴリズムを直接応用できる問題がICMLでも多数存在するというのは言うまでもないのですが、それ以上に計算量やアルゴリズムの視点に立って理論的に考えることが出来るという点が大きな強みなのではないかと感じました。ICMLの発表を聞きながら、その天才的な手法はどう思いついたのか、どう頭の中にひらめいたのかと考えた際、アルゴリズム的、理論的に考えられるかどうかで精度がかなり変わるのではないかと感じました。
第二に、自身のアルゴリズム理論の分野と形式が大きく異なり驚きました。アルゴリズム理論の一般的な国際会議は、およそ200本から300本程度の論文が採択され、各採択論文につき15分間の口頭発表を行うという形式です。ポスター発表はありません。しかしICMLは全く異なり、採択論文数6300件以上、参加者数2万人超で桁が違います。ポスター発表は8個のセッションに分かれていたのですが、1セッションだけでも同時に700以上のポスター発表があり、そのどれが良さそうかを見定めることすら不可能です。そのため当日は、事前に数千のポスターのリストをChatGPTに渡しておき、面白そうなポスターを列挙してもらうという方法を取りました。
最後に、今回のICMLでの経験を活かし、今後さらに良い研究ができるよう精進してまいります。
著者紹介:
米田 優峻(東京大学)
2002年生まれ。東京大学情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻修士課程2年。競技プログラミングで世界トップレベルの成績を獲得。大学対抗プログラミングコンテスト (ICPC) ’25 世界大会で 1 万チーム中 2 位、アジア大会で優勝。国際情報オリンピック金メダリスト。著書 3 冊累計 10 万部突破。
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