日本データベース学会

日本データベース学会 Newsletter 2025年12月号 (Vol.18, No. 7)

目次

  1. RecSys 2025 参加報告
    林 悠大(ウォンテッドリー株式会社)
  2. ADMA 2025 参加報告
    中村 真穂、小林 愛空(京都産業大学)

 本号では、国際会議の参加報告 2 件のご寄稿をいただきました。国際会議報告としては、RecSys 2025 および ADMA 2025 の参加報告をご寄稿いただいております。会議の動向やご自身の研究内容などのご紹介となります。皆様の参考となれば幸いです。

 本号並びに DBSJ Newsletter に対するご意見あるいは次号以降に期待する内容についてご意見がございましたら news-com [at] dbsj.org までお寄せください。

DBSJ Newsletter 編集委員会
(担当編集委員 奥 健太)


1.RecSys 2025 参加報告

林 悠大(ウォンテッドリー株式会社)

 RecSys (ACM Conference on Recommender Systems) はACM が主催する推薦システムに関する主要な国際会議の一つです。本会議には、推薦システムの研究者のみならず、Eコマース、メディア、HR など多様な分野で活躍するデータサイエンティストや ML エンジニアが集まり、学術研究の最新成果から産業界での応用事例まで、幅広いテーマについて発表と議論が行われます。

 今年の RecSys は 9 月 22 日から 26 日までの 5 日間、チェコの首都プラハで開催されました。参加者は 1,056 人で、そのうち日本からの参加者は 62 人と、全体で 4 番目に多い規模でした。本会議の Full/Short Paper の採択率は例年同様およそ 20 %程度でしたが、今年は Industry Track への投稿数が前年から大きく増加し、採択の難易度がさらに高まっていたようです。

 RecSys では、特定のタスクで SoTA を達成する研究に加えて、推薦モデルの評価方法やユーザーのエンゲージメント向上といった、実際の現場で直面する課題に焦点を当てた研究が数多く見られるのも特徴的です。今年の会議では、特に推薦システムの透明性や信頼性に対する注目度が高かったように感じました。1日目のKeynote では、EU における政策決定と推薦システムを関連づけながら、システムの説明性などの重要性が強調されていました。加えて Best Paper Award を受賞した “You Don’t Bring Me Flowers: Mitigating Unwanted Recommendations Through Conformal Risk Control” も、ユーザーが望まないアイテムを推薦しないための方法をテーマにしたもので、ユーザーがサービスに抱く信頼性とも深く関わる非常に興味深い研究でした。また、私自身も本会議初日に論文発表の機会をいただきました。論文はマッチング推薦における新しいオフ方策評価・学習手法を提案したもので、大変光栄なことに Best Paper Candidates にも選出していただきました。

 最後に、来年の RecSys は 9 月末から 10 月初めにかけて アメリカ・ミネアポリスで開催される予定です。学術的にも実応用的にも興味深い会議だと思いますので、推薦にご興味ある方は来年の参加を検討されてみてはいかがでしょうか。

            会場の外観

著者紹介:
林 悠大(ウォンテッドリー株式会社)
 データサイエンティスト。2022 年に東京大学工学系研究科において博士号取得。同年、ウォンテッドリー株式会社に入社。会社訪問アプリ Wantedly Visit における推薦システムの開発に従事。


2.ADMA 2025 参加報告

中村 真穂、小林 愛空(京都産業大学)

 2025 年 10 月 22 日から 24 日まで京都大学で開催された ADMA2025 (The 21st International Conference on Advanced Data Mining and Applications 2025) に参加しました。採択率は 47.7% (157 / 329, full papers: 98, short papers: 49, posters: 10) で、発表は口頭発表とポスターセッションで行われました。ランチでは和食をメインとしたお弁当や麻婆豆腐、水餃子が提供され、美味しい料理を楽しむことができました。

 

             会場                           採択率

 テーマ領域は大別してデータマイニングの理論・技術およびその応用であり、大規模言語モデル(LLM)や検索拡張生成(RAG)を利用した研究が多数見受けられましたが、その適用対象は自然言語処理タスクだけでなく、ヘルスケアや気象など多岐にわたっていました。基調講演には初日と 2 日目に参加しました。機械学習技術、特に LLM の発展により、AI は多様な分野・応用領域で導入されるようになりましたが、それに伴い顕在化した AI の説明可能性や解釈可能性といった課題に対するアプローチに関する研究が紹介されました。また、チュートリアル(初日)では、近年開発された LLM やその学習手法、視覚言語モデルに関する解説が行われました。

 私たちの研究室からは 2 人が poster paper で採択されました。また、運営のお手伝いとして 5 人が参加しました。中村は「A Predictive Model for Eating Disorders Using Digital Biomarkers via Smartphones」という題目で発表を行い、スマートフォンのセンサデータから摂食障害の予測モデル開発手法を提案しました。アプリケーションの使用状況の分析から、摂食障害患者の方がアプリを積極的に使用していることがわかりました。なお、本研究は Best Poster Presentation Runner-up Award を受賞することができました。研究の成果が評価されたことを大変嬉しく思います。研究に際し、貴重なご助言や論文の添削をしてくださった共著者の先生方には深く感謝しております。また、小林は「Considering the Expansion of Product Feature Analysis Methods’ Applicability in Review Video」という題目で発表を行い、多様なレビュー動画の分析を目的として文書分類器の構築手法を提案しました。

 バンケットはホテルオークラ京都で行われ、芸妓さんによる伝統芸能の披露や写真撮影を楽しみ、日本の食材を使ったフレンチ料理を堪能しました。 来年のADMA2026 は中国の香港で開催予定と伺いました。興味のある方は論文投稿および参加の検討をされてはいかがでしょうか。

 

         ウェルカムパーティの様子                       バンケットの様子

著者紹介:
中村 真穂(京都産業大学 中島研究室)
 京都産業大学大学院先端情報学研究科 1 年。モバイルセンサデータを用いた機械学習予測の研究に従事。日本データベース学会に学生会員として所属。

小林 愛空(京都産業大学 中島研究室)
 京都産業大学大学院先端情報学研究科 1 年。商品レビューを対象とした自然言語処理の研究に従事。日本データベース学会に学生会員として所属。


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