日本データベース学会 Newsletter 2024年5月号 (Vol.17, No. 2)
目次
-
日本データベース学会功労賞
-
日本データベース学会功労賞を受賞して 〜「データベース」、あれから、これから〜
北川 博之(筑波大学 教授) -
日本データベース学会功労賞を受賞して 〜セマンティック・コンピューティングの次元拡大と進化:時空間と知識空間の次元的連結による記憶想起空間と想像性の形成に向けて〜
清木 康(慶應義塾大学名誉教授/武蔵野大学教授)
-
日本データベース学会功労賞を受賞して 〜「データベース」、あれから、これから〜
-
日本データベース学会若手功績賞
-
日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜原点〜
奥 健太(龍谷大学) -
日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜偶然に導かれた20年〜
北山 大輔(工学院大学) -
日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜人が育つ風土〜
清水 敏之(九州大学) -
日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜DBSJが私に与えてくれたもの〜
平手 勇宇(楽天グループ株式会社) -
日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜データベースコミュニティのみなさんのおかげです〜
山本 祐輔(名古屋市立大学)
-
日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜原点〜
-
日本データベース学会上林奨励賞
-
日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜博士課程で成長しながら成果を出す〜
加藤 郁之(株式会社Preferred Networks) -
日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜時系列データストリームとその面白さ〜
川畑 光希(大阪大学) -
日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜自分の強みは?〜
中嶋 一貴(東京都立大学) -
日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜新たな問題設定の大切さ〜
陸 可鏡(名古屋大学)
-
日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜博士課程で成長しながら成果を出す〜
本号では、 日本データベース学会の受賞者からご寄稿いただいております。
本号と DBSJ Newsletter に対するご意見あるいは次号以降に期待する内容についてのご意見がございましたらnews-com [at] dbsj.orgまでお寄せください。
DBSJ Newsletter 編集委員会(担当編集委員 北山 大輔)
1.日本データベース学会功労賞
日本データベース学会功労賞は、我が国のデータベース、メディアコンテンツ、情報マネージメント、ソーシャルコンピューティングに関する科学・技術の振興をはかり、もって学術、文化、ならびに産業の発展に大いに寄与された日本データベース学会の会員の功労を賞するためのものです。
表彰規定や歴代の受賞者は以下のWebページからご確認いただけます。
日本データベース学会功労賞
1-1.日本データベース学会功労賞を受賞して 〜「データベース」、あれから、これから〜
北川 博之(筑波大学 教授)
3月の功労賞の受賞にあたり、日本データベース学会ならびに我が国データベースコミュニティの皆様に心より感謝申し上げます。
私は、2002年の設立期から日本データベース学会の活動に参画し、2003年からは理事、副会長、会長、監事として約20年間にわたり学会運営に携わる機会がありました。2005年からの副会長時には、増永良文元会長のリーダーシップのもと、ACM SIGMOD日本支部との一体運営に取り組みました。二つの組織を一体化するための作業において、実際のデータベース統合やエンティティ識別の難しさを痛感しました。また、2014〜2016年の会長職においては、学会活動の基盤となる事務局体制の整備、情報システムの強化、論文誌の見直し・オンライン化等の課題に取り組んだことが懐かしく思い出されます。2021年には喜連川優前会長のもと一般社団法人となり、現在は横田治夫会長を先導役として本学会がますます確固とした基盤を確立しつつあることを大変うれしく思います。
振り返ると、私が大学院学生としてこの分野に足を踏み入れた当時は、リレーショナルDBMSの黎明期でもありました。様々な企業や大学がリレーショナルDBMSの実現を目指した研究開発を進めていました。学会では、正規化理論を筆頭にリレーショナルモデルに関わるトピックが盛んに議論されていました。そのころの「データベース」は、まさにDBMSを中心とするデータ処理管理技術を議論する場でした。それから40年以上の歳月を経た今日の情報技術の進展は隔世の感があります。しかし、そのような大きな時代の変化の中でも「データベース」という旗印のもとに多くの研究者、技術者が集い、コミュニティがさらに発展しつつあることは大変すばらしいことです。私は、その理由の一つとして、「データベース」のもつ大きな「包容力」があるのではないかと思っています。
「データベース」のとらえ方は人ぞれぞれのものがあると思います。受賞講演では、私なりの「データベース」のとらえ方をご紹介させていただきました。すなわち、そもそもComputingとはInformation Processを対象とする科学であり、「データベース」とはInformation Processとそれに関わるデータに焦点を当てる研究領域であると考えます。上記のリレーショナルDBMS黎明期の議論は、Information Processとして当時の典型的ビジネスデータ処理に注目し、それをターゲットとしたデータモデルやデータ処理管理手法の研究と位置付けることができます。一方で、近年注目されているデータサイエンス等のデータ主導の研究は、あらゆる事象・活動に関わるデータに着目し、その着目した事象・活動自体をInformation Processとしてとらえることで新たな価値を見出すアプローチといえるでしょう。「Information Processとそれに関わるデータ」ですので、かなりアバウトなとらえ方と言えますが、昨今の「データベース」分野における極めて多様な研究開発活動や今後のさらなる展開などを見据えると、「データベース」の幅広さや奥行きを強く感じます。また、このようなとらえ方に立ってみると、いかに「データベース」がComputingの中核を担う研究領域としての役割を果たしているかを改めて認識します。
「データベース」の包容力のもと、今後も自由闊達な研究、議論などが展開され、ますますこの分野が発展し羽ばたいていくことを期待しております。私も、もうしばらくは、「Information Processとそれに関わるデータ」の研究をエンジョイしたいと思います。
著者紹介:
北川 博之(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構・教授)
1-2.日本データベース学会功労賞を受賞して 〜セマンティック・コンピューティングの次元拡大と進化:時空間と知識空間の次元的連結による記憶想起空間と想像性の形成に向けて〜
清木 康(慶應義塾大学名誉教授/武蔵野大学教授)
我々人類は、地球上において、生物学的に最も進化した存在として、地球規模での自然および社会環境の永続的維持、改善を最重要な使命として実現しなければならない状況に直面している。その永続的環境維持・改善のために必要不可欠なものは、個々の人間やコミュニティーの環境への意識、知識、行動に加えて、環境維持・改善のためのグローバル環境知識共有・統合・検索・分析・可視化システム・アーキテクチャの実現である。そのための“グローバル環境システム(グローバル環境知識共有・統合・検索・分析・可視化システム)”の実現が期待されている。
グローバル環境システムにおいて、中心的な機能群となるメタレベル・システム・アーキテクチャとして、”5D-World-Map System(5次元世界地図システム)”の実現を目指している。5D World Map Systemは、3次元の地理的空間軸、1次元の時間軸、および、高次元の意味空間軸上に写像される自然環境、社会環境事象を5次元空間(3次元地理的空間軸、1次元時間軸、1次元に縮退した意味空間軸)の世界地図上に写像し、世界規模での知識蓄積、共有、検索、統合、分析、可視化を実現するシステムである。世界中で発生する各事象(現在の主要対象:海洋環境変化)について、意味的、時間的、地理的な状況、特徴を高次元空間に写像し、意味、地理、時間によって表現される文脈に応じて、それに対応する部分空間を選択し、その部分空間上での距離計算により記憶想起を行い、その結果を、その文脈に対応する時間と地理を表す世界地図上に可視化するシステムである。
現在、自然環境分野の情報源と専門知識を対象とし、”メタレベル・システム・アーキテクチャ”実現を主要テーマとして、海外の大学、研究機関との間でグローバル環境システム実現に向けての共同研究を進めている。5D World Map Systemについては、2018年8月、国際連合アジア太平洋経済社会委員会(UN-ESCAP)と慶應義塾大学KEIO SFC MDBLとの連携により、SDGsナレッジプラットフォームSDG HELPDESKの活用、および、共同研究を行ってきた。UN-ESCAPにおいては、5D World Map Systemが、SDG 11、 SDG14分野における環境センシング、環境分析、環境可視化を行うシステムとして活用されている。
(https://sdghelpdesk.unescap.org/toolboxes?field_sdgs_target_id=All&title=&page=8)
著者紹介:
清木 康(慶應義塾大学名誉教授、武蔵野大学データサイエンス学部教授)
慶應義塾大学大工学研究科博士課程修了(1983)。工学博士。1984年〜1996年筑波大学講師・助教授。1998年〜2021年慶應義塾大学環境情報学部教授。2015年〜2017年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科委員長。現在武蔵野大学データサイエンス学科学部長・教授。マルチメディアデータベース、感性データベース、意味的連想検索などを専門とする。日本データベース学会第5代会長
2.日本データベース学会若手功績賞
日本データベース学会若手功績賞は、本会の活動に多大なる貢献をしてきた若手会員を賞するもので、本会の対象とする研究分野において優れた実績を有する場合もその対象となります。
表彰規定や歴代の受賞者は以下のWebページからご確認いただけます。
日本データベース学会若手功績賞
2-1.日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜原点〜
奥 健太(龍谷大学)
この度は、若手功績賞という栄誉ある賞を頂き、誠に光栄に存じます。まずは、ご推薦くださった方々、データベースコミュニティの皆様に心より感謝申し上げます。
私は、学生時代、奈良先端科学技術大学院大学の植村研究室に所属しておりました。当時、ご指導頂きました植村先生はじめ、宮崎先生、波多野先生、中島先生に、感謝申し上げます。先生方のご指導の下、データベースコミュニティで研究発表する機会を多く頂きました。また同時に、学生スタッフとして、学会の運営にも関わらせて頂く機会を頂きました。お陰様で、学生時代から当コミュニティの先生方にも名前を覚えて頂けるようになり、研究や学会運営面等、さまざまな観点からご指導頂けたことは大変貴重な経験で、非常に嬉しく感じております。植村研究室での研究活動が、まさに当コミュニティでの活動の原点となります。この場をお借りして、ご指導頂きましたデータベースコミュニティの皆様に改めて御礼申し上げます。本来であれば、お世話になったすべての方々のお名前を記載させて頂きたいところではございますが、とても1,000字では書ききれないため、「皆様」という表現でご容赦ください。
さて、原点といいますと、学生時代、研究をご指導頂いた中島先生から、推薦システムの研究テーマを頂き、そのテーマで学位を取得することができました。この推薦システムは現在の私の軸となっており、これもまさに私にとっての原点であるといえます。この推薦システムを軸として、これまでさまざまな研究教育活動をさせて頂きました。
例えば、当コミュニティにおいて、先生方が有志で開催されている国際会議の勉強会であるDB・IR勉強会に触発されて、推薦システムの国際会議であるRecSysを対象としたRecSys勉強会を、北山先生と一緒に企画させて頂いたこともあります。この活動を通して、当コミュニティの多くの先生方にご指導頂きながら、当時の学生さん方や企業の方々と共に推薦システムについて深く議論し、交流を深めることができました。
最近は、学部生や高校生向けに推薦システムの教育コンテンツを作成し、公開するよう努めております。まだまだ充実したコンテンツといえるほどではなく、自己満足の域を超えるものではございませんが、こういった活動を通して、将来の学生さん方が推薦システムに興味をもち、そこからデータ工学の面白さに気づき、ゆくゆくはデータベースコミュニティに参加するきっかけになればと願っております。
著者紹介:
奥 健太(龍谷大学)
2-2.日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜偶然に導かれた20年〜
北山 大輔(工学院大学)
まず若手功績賞という素敵な賞をいただけたことを非常にうれしく思っております。偶然にもこのDBSJNewsletterの編集に関わっており、これまで歴々の受賞者の声を取りまとめてきたのですが、まさか自分が担当する号において自分で記事を書くことになるとは思っていませんでした。ご推薦下さった方々、これまでご指導いただいた方々にこの場を借りて感謝申し上げます。
思えばデータベースコミュニティで活動するようになることも、大学教員として活動することになることも、まったくの偶然からのスタートでした。出身大学では学部3年生から研究室配属という仕組みだったのですが、4年生に上がるとき、配属先の教授が晴天の霹靂で異動したことをきっかけに恩師と出会ったのが始まりと言えます。その時は、こんなに長くアカデミアに、さらにデータベースコミュニティに関わるとは夢にも思っていませんでした。そもそも4年生に上がるまで、データベースはおろか情報技術に関する専門知識さえまともに学んではいなかったのです。しかし、興味のある分野ではあり、たまたま大学院の推薦を受けられる成績でもあったので「大学院に行ってみて勉強しなさい」というメッセージと考え、大学院進学を決めたのでした。
その後、2005年からDEIM(当時はDEWS)等で発表をしたり、学生スタッフとして運営の一部に関わらせてもらううちに、「研究者は面白い」と思うようになりました。結果として、DEIM2024まで連続で参加し、自分の研究室を持ち、学生を指導し、学会でその学生が発表など、非常に充実した日々を送っています。しかし、4年生時に偶然来た教員が恩師でなかったら、データベースコミュニティでなかったら、きっと違う道に進んでいたことと思います。このような面白いコミュニティを作り上げてきた皆様には頭が上がりません。
この度DEIM2024の開催地が姫路でしたので、学生時代を過ごした姫路の街や大学キャンパスを久しぶりに見てきました。学生時代に感じた面白さを今の自分は持ってるんだろうか、諸先輩方のように自分は学生たちに面白さを示せているのだろうかとか、そんなことを考えながら当時を振り替えっていました。開催地が姫路であったことはまったく偶然ではあるのですが、「初心に帰って頑張りなさい」というメッセージであろうと受け取り、これからも「面白い研究」「面白い出会い」「面白いコミュニティ」のために邁進したいと思います。これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
著者紹介:
北山 大輔(工学院大学)
工学院大学情報学部情報科学科准教授。2009年兵庫県立大学博士(環境人間学)。2011年兵庫県立大学特任助教。2012年工学院大学情報学部助教。2016年より准教授。Web・地理情報検索および推薦技術の研究などに従事。DEIM各種委員、WebDB各種委員、SoC共同実行委員長・運営委員、TOD編集委員幹事補佐、IEICEデータ工学特集号編集委員などを歴任。
2-3.日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜人が育つ風土〜
清水 敏之(九州大学)
日本データベース学会若手功績賞という栄誉ある賞をいただき、大変光栄に思います。これまでご指導くださった方々、推薦してくださった方々をはじめ、皆様に感謝申し上げます。
私がデータベースコミュニティの学会に初めて参加したのは2004年のDEWSでした。2005年のDEWSでは優秀論文賞をいただき、その後にミニサーベイ講演をさせていただいたことは大変よい経験になりました。当時は学生で、佐世保や沖縄など面白い場所で開催されるDEWSにとても楽しく参加していたことを思い出します。教員になってからはWebDB ForumやDEIM等の運営にも携わるようになりましたが、一緒に仕事をさせていただくのが優秀な方ばかりで学ぶことが多く、研究および学会運営の両面でコミュニティに育てていただいたと思っております。
思い返すと学会運営の仕事については比較的簡単な役割の担当から始まっており、取り組みやすさが配慮されていました。最初は、どのような仕事があるのか、どのような人がいるのか、分からないことだらけでしたが、経験ある先生方の進め方を見ることができ、大変勉強になりました。また、学会運営を通していつの間にか知り合いの先生方も増えてきました。論文誌の編集委員の仕事もいくつかさせていただきましたが、査読における議論のポイントや異なる論文誌での運営の違いなど、それまで十分には意識できていなかった視点を持つことができるようになりました。本会のコミュニティはこのようなことを徐々に学んでいけるような風土が形成されているのではないかと思います。
学会運営に関しては、基本的に私はこれまでのことを引き継いで地道に作業する形で、細かい改善を行うことができる場合もありましたが、まだまだ力が足りていないところもあるかと思います。大きな改善や新しい取り組みにも対応できるよう頑張って参りたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
著者紹介:
清水 敏之 (九州大学)
2-4.日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜DBSJが私に与えてくれたもの〜
平手 勇宇(楽天グループ株式会社)
この度は、日本データベース学会若手功績賞という大変名誉ある賞を頂戴でき、大変光栄に存じております。ご推薦いただいた先生方、また日本データベース学会にてご一緒をさせていただいた皆様に心より御礼を申し上げます。
私が初めて日本データベース学会の会議に参加をしたのは、ちょうど20年前のDEWS2004です。(毎年3月にDEIMが開催されておりますが、以前はDEWSという会議名でした。)当時は学部4年生で、右も左もわからない状態で会議に参加したのですが、先生方からあたたかいコメントやアドバイスを頂戴することができ、日本データベース学会のコミュニティに惹かれていったことを記憶しております。
その後、徐々に会議の運営委員の依頼をいただけるようになり、様々な先生方と一緒にお仕事をする機会をいただきました。学位取得後、主に企業の研究所に籍を置いております関係から、WebDBやDEIMでの産学連携担当として、スポンサーシッププログラムの設計、スポンサー募集、および会議当日の運用などに携わることが多かったのですが、大学の先生方とのコミュニケーションはもちろんのこと、本業の肩書では話すことが難しい他企業の研究者の皆様とも、日本データベース学会というコンテキストでインタラクションを持つことができました。このような経験は、企業人としての引き出しを増やすことに繋がっていると感じており、その機会を提供していただいた日本データベース学会には、感謝してもしきれません。
また、本学会の皆様にとって、企業が保有する実データは価値があるのではないかという考えの下、2010年より、弊社の保有するデータの中で、研究目的で公開可能なデータを提供するという活動を実施してまいりました。(NII様の情報学研究データリポジトリ、およびALAGIN様のスキームを活用させていただいております。)おかげさまで、多くの大学の先生、学生の皆様にご活用いただいており、微力ながら皆様に貢献できていると感じることができ、大変うれしく思っております。
本学会に参加するようになり、ちょうど20年という節目のタイミングで若手功績賞を頂戴したことに、重要な意味を持たせるべきではないかと感じております。今一度、自身が日本データベース学会にできることは何かを考え、貢献をしてまいりたいと存じております。引き続き、皆様とご一緒させていただければ幸いでございます。
著者紹介:
平手勇宇(楽天グループ株式会社)
2-5.日本データベース学会若手功績賞を受賞して 〜データベースコミュニティのみなさんのおかげです〜
山本 祐輔(名古屋市立大学)
この度は日本データベース学会若手功績賞という大変栄誉ある賞をいただき、誠にありがとうございます。ご推薦くださった方々、これまでご指導いただいた方々をはじめ、データベースコミュニティの皆様に心より感謝申し上げます。
今回の受賞の連絡をいただいたとき、正直驚きました。これまで受賞されてきた方々のお名前を拝見すると、どの方も研究や学会活動で活躍された方々ばかり。一方、わたしはそういった活躍をされている先輩や同僚のお手伝いをしてきただけです。受賞者としてもっと相応しい人がいるだろうと今でも思っており、大変恐縮しております。
わたしと日本データベース学会の関わりは、DEWS2007から始まりました。中途半端な卒論の内容をポスター枠で発表し、あまりの情けなさに発表後現地でポスターを破り捨てたことを今でも鮮明に覚えております。こんな思いは二度としたくない。そう思い、修士1年生からは心を入れ替えて研究活動に打ち込んできました。他方、学会運営はそれほど関心もなく、先輩や知り合いの先生方に誘われるがままにお手伝いをするという感じでスタートしました。今思うと、そうやって誘っていただくことがなければ、出不精で人見知りのわたしが、学会における様々な活動の考え方や方法(+ 様々な苦労)を学んだり、コミュニティの方々とのつながりを得ることは難しかったと思います。学会運営に携わった経験と、そこで多くの方々と出会い交流できたことは、現在の研究活動や大学での業務、学生指導にも活かされております。学生時代には想像もしていませんでしたが、今の自分があるのはこのコミュニティ「縁」のおかげです。ありがとうございます。
現在は、批判的な情報探索や意思決定を促進するための情報アクセスシステムに関する研究を進めております。ユーザの態度や行動に焦点を当てた研究でデータベース研究の中心からは外れていますが、懐の広いデータベースコミュニティの皆様には研究イベントや論文誌の査読コメント等でいつも有意義なコメントをいただき感謝しております。若手功績賞を受賞すると、これを機に自分がもう「若手研究者」ではなくなるような気がして寂しくなりましたが、若手研究者に負けないよう研究活動に取り組みたいと思います。
(この文章はChatGPTで生成されたものではありません)
著者紹介:
山本 祐輔(名古屋市立大学)
3.日本データベース学会上林奨励賞
上林奨励賞は、故 上林弥彦 日本データベース学会初代会長のご遺族からご寄贈頂いた資金を活用し、データベース、メディアコンテンツ、情報マネージメント、ソーシャルコンピューティングに関する研究や技術に対して国際的に優れた発表を行い、かつ本会の活動に貢献してきた若手会員を奨励するためのものです。
表彰規定や歴代の受賞者は以下のWebページからご確認いただけます。
日本データベース学会上林奨励賞
3-1.日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜博士課程で成長しながら成果を出す〜
加藤 郁之(株式会社Preferred Networks)
このたび上林奨励賞を授与いただき、大変光栄です。私のような者にこのような栄誉を賜り、関係者の皆さま、これまでお世話になった皆さまに心より感謝しております。特に、京都大学で6年間お世話になった吉川正俊先生、曹洋先生には、研究活動全てに通ずる根底の考え方や姿勢をじっくりと教えて頂き貴重な経験をたくさん得させて頂きました。同様に、Emory大学のLi Xiong先生、当時京都大学の加藤誠先生、当時LINEの橋翼先生には研究の方法論の面で大変多くのことを学ばせて頂きました。また、高校時代から10年以上の付き合いで、大変尊敬している同期である高木駿には博士課程の卒業に至るまで多くの面で支えて頂きました。私の研究成果は、彼らと、DBSJのコミュニティに関わる皆さまのサポートのおかげで達成したものであり、本当に感謝しております。
私はいま(2024年3月時点)博士課程を卒業する直前なのですが、博士課程の3年間は、研究成果を出しがら自分が成長していくために多くの試行錯誤をしてきました。最終的には、指導教官方の適切な導きのおかげで自分としては充実した博士課程を過ごすことができたと感じています。ここでは、研究内容そのものよりも3年間を振り返りながら、博士課程において研究成果を出しながら成長していくための私なりの経験について共有できればと思います。
実は私は修士課程の時点では学術研究にはほとんど興味を持っておらず、博士進学を決めたのはコロナの影響で留学に行けなくなった修士2年のことでした。正直その時点では、学会や論文がなんなのかすらあまりよく分かっていませんでした。そのような状態から博士課程の間に成長して研究成果を上げていくというのは、やみくもに頑張ると難しかったかもしれません。今振り返ってみると、私の場合はいくつかのターニングポイントがあり、大事なことはその時その時で適切な環境に自分の身を置くことだったのではないかと思います。
私は修士2年の夏に、(当時吉川研とLINEにはプライバシに関する学術研究で繋がりがあったこともあり)ご縁あってLINEの研究インターンに参加させて頂きました。そこで当時LINEの髙橋翼先生からトップカンファレンスに論文を通すためのノウハウを学ぶことができました。当時何も知らなかった私は、質の高い指導を密に受けることで研究の方法論をどんどん吸収していくことができました。その時の研究成果は、本受賞のきっかけとなったVLDB2022に採択されました。何度か不採択があったのですが、不採択に対する改善プロセスから、隙のない論文に仕上げるためのノウハウをさらにご指導頂くことができたので、これも私にとってはラッキーだと思っていました。結果的に大きく成長することができ、この初期のタイミングで、成果を出すことを重視する研究インターンに自分の身をおけたことが功を奏したのだと思います。
次に博士課程では、あえて自分の研究プロジェクトに集中し、先に得られたノウハウを自分の力で活用してみて再現することを心がけるようにしました。そのノウハウを吉川先生や曹先生にぶつけてみると、意外と違う思想を持っていたりして研究者ごとの違いやトレンドの変化を感じたりもしました。これは研究の方法論をメタに理解するために非常に重要だったのではないかと思います。様々なレビュワに対する解像度も上がったように思います。この時に取り組んでいたテーマは、最終的にVLDB2023に採択されました。VLDB2022も2023の論文も、何度もリジェクトされましたが、最終的な完成度がだいたい同じような感じでした。今回自分の力で研究を進めたことで(もちろん指導教員のサポートありきですが!!)、このくらい書けばちゃんと採択してくれる、というラインがかなり分かったような気がしました。ここでの経験は、自分なりの研究ノウハウを効率的に形成することに繋がったように思います。
最後に、博士課程3年の開始時には機会に恵まれ、Emory大学のLi Xiong先生の元に留学して研究することができました。これまで博士課程で自分なりに形成した研究ノウハウを世界のトップ研究者にブラッシュアップしてもらえるいい機会だと思っていました。実際に一緒に研究活動を進める中で、答え合わせとして、自分の方法論の良い部分と悪い部分についてかなり客観的に評価することができました。Emory大学での研究成果はまだ学会に投稿中なのですが、私としてはこれまでで最もスムーズな成果の出し方だったと感じ、自信を深めることができました。Li Xiong先生からは研究以外にもコミュニケーションやリーダーシップなど多くのことを学ばせて頂きましたが、国際的に活躍する標準は非常に高く、またさらなる成長の意欲を得ることができました。
以上からわかる通り、私は博士課程卒業までの各フェーズで、適切な環境で適切なチャレンジをすることで効率よく成長させて頂きながら、いくつかの研究成果を出すことができました。これらは、非常に幸運だったこともあると思いますが、指導教員である吉川先生と曹先生の適切なタイミングでの導きのおかげです。先生方や研究コミュニティに手塩にかけて育てて頂いたことに深く感謝し、これからも精進してまいりたいと思います。同じような境遇の学生は、ぜひ博士課程の進め方の一例として参考にして頂ければ幸いです。
著者紹介:
加藤 郁之(株式会社Preferred Networks)
3-2.日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜時系列データストリームとその面白さ〜
川畑 光希(大阪大学)
この度は、日本データベース学会上林奨励賞を頂戴し、誠に光栄に存じます。これまでご指導くださった先生方、データベースコミュニティの皆様に心より感謝いたします。
これまで国際会議に採択された論文はいずれも時系列データストリームからの効率的なパターン検出に関するものです。特に最近の研究ではテンソルデータを高速に分解し、非線形なダイナミクスを捉えるためのモデル・アルゴリズムを開発いたしました。具体的には、Web検索ワードのトレンド分析において、キーワード間・地域間に潜在する競争・共存等の依存関係を抽出し、そうした関係性の変化を捉えることで、高精度な将来予測を実現しています。IoT・Webデータはトレンドががらりと変化することが多く、いつ、なぜ、どのように変化したのかと疑問が尽きません。有用な知見を得るためには、リアルタイム性を捨てずにモデル推定・選択を実行する必要がありますが、表現能力の高いモデルを扱うには挑戦的な課題が多く残されています。今後もデータベースコミュニティで多くの技術に触れ、この課題に取り組んでいければと考えております。
私の初めての研究発表はDEIMで、データベース学会の皆様には研究開始当初から大変お世話になりました。当時の上林奨励賞受賞式では、喜連川先生が受賞者を讃えつつも更なる業績を求める厳しいお言葉を(冗談半分で)贈っていたことが印象深いです。残念なことに、今回、私自身の受賞式への参加が叶わなかったのですが、海外留学中にもコミュニティの皆様が築かれてきた知識と人脈に助けられ、とても心強く感じました。私も今回の受賞を励みに精進し、データベースコミュニティの発展に少しでも貢献できるよう尽力してまいりますので、今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
著者紹介:
川畑 光希 (大阪大学)
2021年3月大阪大学大学院情報科学研究科博士後期課程修了。博士(情報科学)。同年4月より大阪大学産業科学研究所助教。データマイニング、データストリーム処理に関する研究開発に従事。日本データベース学会、情報処理学会、各会員。
3-3.日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜自分の強みは?〜
中嶋 一貴(東京都立大学)
この度は、上林奨励賞という名誉ある賞を頂き、誠にありがとうございます。日本データベース学会の皆様、本賞選考をご担当していただいた皆様、そしてご指導いただいた先生方、共同研究者の皆さまに御礼申し上げます。今回の受賞を励みに、より一層精進して参ります。
本賞の受賞理由の一部として KDD 2020 の論文を挙げていただきました。この研究は、東工大の出身研究室でいただいた研究テーマを発展させたもので、自分が研究を好き・面白いと思えるきっかけでもあり、自分の研究者としての原点となるものです。修士1年時にとある研究で半年以上迷走していて、さすがに別の研究に切り替えようと思い、次の研究ネタをいろいろと考えていました。その中で1つだけ幸先良い実験結果が得られたものがありました。DEIM 2019 でその結果を発表させていただくとともに、VLDB 突破会に参加しました。データベース学会のコミュニティでトップ会議を目指す雰囲気に自然と惹かれて、VLDB 2020 に投稿することに決めました。VLDB 2020 は不採択でしたが、VLDB 2020 の建設的な査読もあって、その後のブラッシュアップを経て KDD 2020 に採択されました。VLDB 突破会をはじめとしたデータベース学会でトップ会議を目指す雰囲気が1つの大きな採択要因であったと思います。
博士課程中には、米国で研究する機会を得ました。英語での研究コミュニケーションに苦労し、英語で研究の議論をするたびに落ち込んでいました。一方で、1年弱の米国での研究生活を経て、自分の強みも見えてきました。1つは馬力、つまりアイディアを出して検証するスピード・量です。これは学生・ポスドクの間に鍛えていただいたもので、今でも研究をする上で大事にしています。もう1つは泥臭さ、つまり骨の折れる研究上の作業をいとわずにできることです。米国で遂行した研究で、サンプルデータを手作業で検証する過程がありました。こうしたデータ整備は初めてでしたし、最初は大変そうに見えたのですが、結果的に楽しく取り組むことができました。KDD に採択された後、自分の強みは何か、どの研究領域を専門としていくか、をよく悩んでいましたが、米国での研究生活を経て、自分の強みとそれが活かされうる研究領域が見えたことは大きな収穫でした。
最近では、国際的なプレゼンスを高めていくために、国際会議に参加して研究成果を発表するとともに海外の研究者と積極的に交流することを心がけています。今後、国際会議の参加報告などを通じて、データベース学会からの国際会議投稿をさらに盛り上げられるような形で貢献できたらと思います。
著者紹介:
中嶋 一貴(東京都立大学)
東京都立大学システムデザイン研究科情報科学域助教。2022年東京工業大学情報理工学院数理・計算科学系修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員PD、ニューヨーク州立大学客員研究員を経て、2023年より現職。計算社会科学、ソーシャルネットワーク分析、学術データ分析に関する研究に従事。KDD (2020), ICDE (2022) などで筆頭著者。
3-4.日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜新たな問題設定の大切さ〜
陸 可鏡(名古屋大学)
この度は、上林奨励賞という名誉ある賞を頂戴し光栄に思います、ご推薦くださったデータベース学会の皆様に御礼申し上げます。
僕は2021年に北大で博士卒業以来、名大のデータベース研究室に特任助教を務めています。研究テーマは修士の時からずっと高次元空間の近似最近傍探索(ANNS)です。分かりやすい問題ですが、充分に研究された基礎問題ですので、提案手法の種類も多くて、今の段階で進展するのはかなり難しいです。最初の時、自分の研究手法が主にLSH(Locality Sensitive Hashing)でしたが(受賞もほぼLSHの研究論文に繋がります)、最近は探索のパフォーマンスを重んじて、隣接グラフを研究しています。もし読者の中にANNSに興味を持つ若い生徒がいるなら、自分のアドバイスは、ANNSに専念する一方で、色々なシナリオに対して、ANNSに関する新たな問題設定を発見することも重要なんです。
個人としては、今後も関連研究を続けて、理論と実践両方から、良い研究成果を目指します。
著者紹介:
陸 可鏡(名古屋大学)
名古屋大学大学院情報学研究科特任助教。2021年北海道大学大学院情報科学研究科修了。博士(情報学)。2021年名古屋大学情報学研究科研究員、2023年より現職。パターン認識、時空間データベース、データマイニングなどに興味。ICDE (2020), VLDB (2020, 2022, 2023) などで筆頭著者。
過去のNewsletterはこちらです。