日本データベース学会

日本データベース学会 Newsletter 2026年2月号 (Vol.18, No. 8)

目次

  1. VLDB 2025 参加報告
    三木 隆哉(大阪大学)
  2. SOSP 2025 参加報告
    中森 辰洋(慶應義塾大学)

 本号では、国際会議の参加報告 2 件のご寄稿をいただきました。国際会議報告としては、VLDB 2025 および SOSP 2025 の参加報告をご寄稿いただいております。会議の動向やご自身の研究内容などのご紹介となります。皆様の参考となれば幸いです。

 本号並びに DBSJ Newsletter に対するご意見あるいは次号以降に期待する内容についてご意見がございましたら news-com [at] dbsj.org までお寄せください。

DBSJ Newsletter 編集委員会
(担当編集委員 山室 健)


1.VLDB 2025 参加報告

三木 隆哉(大阪大学)

 2025 年 9 月 1 日から 5 日までの 5 日間、イギリス・ロンドンで開催されたデータベース分野のトップカンファレンスである VLDB 2025 (51st International Conference on Very Large Data Bases) に現地参加しました。VLDB への論文投稿数は年々増加しており、2025 年は 51 カ国から過去最多となる 1613 本の論文が投稿され、そのうち 396 本が採択されました。国別の投稿数を見ると、中国からの投稿が最も多く 870 本 (うち採択 170 本) であり、次いでアメリカが 450 本 (うち採択 136 本) でした。一方、日本からは 33本の論文が投稿され、7 本が採択されていました。会議の形式は対面形式が中心でしたが、一部現地参加ができない発表者については、事前に録画された発表を放映するハイブリッド形式が採用されていました。研究トピックとしては、「データベースエンジン」の名前を含むセッションが高い人気を集めていたのが印象的でした。

 私にとって初めての国際学会への参加でしたが、世界トップレベルの研究に数多く触れることができ、非常によい経験になりました。特に、毎朝の Welcome Refreshment や昼食、3 日目の夜にロンドンの中心部にある National Gallery で開催された Social Evening など、他の研究者と交流する機会が多く設けられており、様々なバックグラウンドを持つ研究者と議論や親睦を深めることができました。

 数ある発表の中でも、Eindhoven University of TechnologyのThomas Mulder氏らによる “Optimizing Navigational Graph Queries” が印象に残っています。この研究は、グラフ問合せの処理において高いコストがかかる推移閉包を、seedingという最適化技術を用いることで高速に処理できることを示したものです。グラフデータベースに興味がある私にとって、この研究は非常に刺激的なものとなり、現在はこの論文で用いられたグラフデータベースの研究開発に取り組んでいます。

 次回の VLDB は 2026 年 8 月 31 日から 9 月 4 日の 5 日間、アメリカ・ボストンで開催されます。VLDB ではデータベースに関する幅広い分野の研究論文が集まります。データベースの最先端の技術を知る絶好の機会になると思いますので、ご興味のある方は論文投稿および現地参加を検討してみてはいかがでしょうか。

著者紹介:
三木 隆哉 (大阪大学 鬼塚研究室)

liu
2025 年、大阪大学工学部電子情報工学科卒業。同年 4 月より、大阪大学大学院情報科学研究科博士前期課程に入学し、現在 1 年。グラフデータベースに関する研究に従事。現在はグラフ問合せの1つである正規問合せのカーディナリティ推定についての研究に取り組んでいる。

2.システム研究コミュニティ SOSP 2025 参加報告

中森 辰洋(慶應義塾大学)

 採択論文リストに「SOSP」の文字を見つけると、システム系の研究者は思わず目の色を変えます。それほど SOSP は、システムソフトウェア分野において特別な位置づけを持つ国際会議です。SOSP (The ACM Symposium on Operating Systems Principles) は、システムソフトウェア分野における最高峰の国際会議の一つとして位置づけられています。長年 2 年に 1 度開催されてきましたが、2024 年からは年 1 回開催となりました。今回私は、韓国で開催されたSOSP 2025 (The 31st Symposium on Operating Systems Principles) に参加し、ポスター発表を行うとともに、世界の第一線で活躍する研究者と交流する機会を得ました。

 本会議では、オペレーティングシステムの基礎的な設計や理論的検討から、クラウド・データセンター基盤、ストレージや分散システムまで、幅広いシステム研究が発表されていました。その中でも、大規模言語モデル (LLM) を強く意識したシステム研究が多く見られました。会議期間中は、Ion Stoica 教授をはじめとするシステム分野において絶大な影響力を持つ研究者が活発に議論を交わしており、SOSP が世界のシステム研究を牽引してきた場であることを強く実感しました。その一方で、SOSP ではメンターシッププログラムが開催されるなど、若手研究者を積極的に SOSP コミュニティへ引き上げようとする取り組みも行われていました。私は、Cornell University 卒で Databricksに所属する Florian Suri-Payer 博士をメンターとしてアサインしていただき、互いの研究の方向性や問題意識について議論する機会を得ました。さらに、Florian 氏の元指導教員である UC Berkeley の Prof. Natacha Crooks とも交流することができ、トップレベルの研究をどのように生み出していくのかについて直接伺うことができました。

 こうしたメンターシップでの議論に加え、自身の研究を発表するポスターセッションを通じても、多くの研究者と意見交換を行う機会がありました。ポスターセッションでは、データベースの性能予測に関する研究について発表を行いました。本研究では、過去に収集したデータを再利用し、現在のワークロード下におけるデータベース性能を予測するために、データベースの状態の類似度を計算する手法を提案しています。研究の背景や着想、現在の進捗について説明しながら、来場した研究者と個別に議論する形式で発表を行い、研究の位置づけや今後の方向性について多くの示唆を得ることができました。さらにポスター発表中に、私が学部生の頃に VLDB 2022 で知り合い、その後も論文を通じて研究動向を追っていた、私の研究テーマと非常に近い領域に取り組んでいる University of Wisconsin-Madison 卒の Konstantinos Kanellis 博士と偶然再会する機会がありました。ポスター発表を通じて、私と彼のアプローチの違いについて直接議論することができました。この研究内容 Libra は PVLDB Vol.19 (VLDB’26) に採択されましたが、それには SOSP 参加者とのディスカッションで得られた知見が反映されています。

 こうした世界の第一線で活躍する研究者と直接議論し、自身の研究や問題意識について率直な意見を交わせた経験は、研究者として非常に大きな刺激となりました。長期的に研究を続けていく上では、国際的な舞台で研究を発信し、世界規模の研究コミュニティとつながり続けながら議論を重ねていくことの重要性を、改めて実感しました。今後 SOSP に参加される日本の研究者の中から、こうした機会を積極的に活用して国際的な研究コミュニティとつながり、世界の舞台で活躍の輪を広げていく方が一人でも多く現れることを、心から願います。

著者紹介:
中森辰洋(慶應義塾大学 川島研究室)

liu
慶應義塾大学政策・メディア研究科博士課程 1 年に在籍。システムの性能最適化、分散システム、強化学習に関心を持つ。現在は機械学習モデルを用いたシステム性能最適化に関する研究に取り組んでいる。国外の研究コミュニティへの進出を目指している。

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