日本データベース学会 Newsletter 2026年8月号 (Vol.19, No. 4)
目次
- ACM SIGMOD/PODS 2026 参加報告
高田 晴成(慶應義塾大学) - CVPR 2026 参加報告
鷄内 朋也(株式会社KDDI総合研究所) - ICWSM 2026 参加報告
津川 翔(筑波大学) - NetSci 2026 参加報告
中条 雅貴(東京大学)
本号では ACM SIGMOD/PODS 2026,CVPR 2026,ICWSM 2026,NetSci 2026の4件の国際会議の参加報告をご寄稿いただきました.それぞれの会議の様子や招待講演の内容,ご自身が発表された研究内容などについて紹介していただいております.ぜひご覧いただければ幸いです.
本号ならびにDBSJ Newsletterに対するご意見あるいは次号以降に期待する内容についてのご意見がございましたらnews-com[at]dbsj.orgまでお寄せください.
DBSJ Newsletter 編集委員会
(担当編集委員 斉藤 和広)
1.ACM SIGMOD/PODS 2026 参加報告
高田 晴成(慶應義塾大学)
この度、2026年5月31日から6月5日にかけて、インド・バンガロールにて開催された 2026 ACM SIGMOD/PODS Conference に参加してまいりました。SIGMOD は、データベース分野における最高峰の国際会議として知られております。世界各国から、学術界・産業界を問わず第一線の研究者が一堂に会し、研究発表および議論を通じて活発な交流が繰り広げられます。6日間にわたり、数多くの研究者と邂逅し、多くの示唆に富む時間を過ごしてまいりました。以下、その概要についてご報告申し上げます。
本会議では、データベースのセキュリティ、ハードウェア、フォーマット、Graph Database、Vector Database など、当分野における多岐にわたる研究発表が行われ、トップカンファレンスに相応しく、いずれも極めて高い水準で議論が展開されておりました。私自身は分散データベースを主たる関心領域としておりますが、今回は他分野の先端的研究に触れる貴重な機会となりました。中でも、Disaggregated Storage、Vector Database、Apache Parquet といった語が、とりわけ頻繁に言及されていた点が印象的でした。これは、AI時代において、AIの活用を前提とした大規模データ基盤への需要が高まりつつあることを示唆しているものと考えられます。
こうした潮流を象徴していたのが、ETH Zurich の Gustavo Alonso 教授による基調講演「A New Golden Era for Data Management」です。同講演では、近年のAIの飛躍がハードウェアの急速な進歩によってもたらされた一方、データ処理システムは既存のハードウェアに受動的に適応するのみで、その設計に影響を与えてこなかったことが指摘されました。実際、レイクハウス環境では Parquet の読み込み処理だけでCPU時間の約半分を占めているとのデータが示され、こうした処理こそデータ処理に特化したハードウェアの対象となりうると論じられました。ハードウェアの進歩を待つのではなく、データベース分野の側から必要なハードウェアを提案していくべきであり、「これまでの前提も設計原則ももはや通用しない。だからこそ今はデータベース研究にとって最良の時代である」という締めくくりは、会場全体に強い印象を残しておりました。
一つ印象的だったのは、中国からの研究発表が数多く見られたことです。公式の統計においても、中国からの発表が最も多いことが示されておりました。会期中、Alibaba から発表を行った研究者と言葉を交わす機会に恵まれました。その方によれば、中国のようにトラフィックが極めて多い国では、データ基盤に求められる要求水準も高く、それゆえに解決すべき課題も数多く生じるため、それらがそのまま研究の題材となるとのことでした。日本も、こうした国際会議の場において、より存在感を高めていくことができればと感じた次第です。
私自身は分散システム分野に関心を寄せており、本会議でも分散データベースに関する研究発表が数多く見られました。中でも、MongoDB Research の Senior Researcher である A. Jesse Jiryu Davis 氏による「LeaseGuard: Raft Leases Done Right」という分散合意アルゴリズムRaftに関する研究発表に強い関心を抱き、発表の場で質問をさせていただいたほか、発表後のランチセッションにおいても詳細に議論を交わす機会を得ました。また、Cockroach Labs の Director であるRebecca Taft 氏とも、分散レプリケーションプロトコルの動向について議論する機会をいただき、最新のプロトコルをいかにして製品へ円滑に採用していくか、という点について貴重なご示唆を賜りました。
また、私が第二著者として投稿した「Epoch-based Optimistic Concurrency Control in Geo-replicated Databases」の研究発表が、第一著者によって行われました。地理的に分散したデータベースでは、拠点間の通信遅延が大きいため、拠点同士のやり取りが性能上の制約となります。本研究では、このやり取りを極力減らしつつ処理の正しさを保つ分散並行性制御機構 Minerva を提案し、高遅延環境下の評価において既存手法比 2.8 倍の性能を達成いたしました。発表はオンライン形式でのものでしたが、発表後にも活発な議論が交わされ、今後の研究の発展につながる貴重なご意見を数多くいただきました。
SIGMOD の特色は、発表の場にとどまらず、研究者同士が直接対話する機会が数多く用意されている点にあります。発表後のランチセッションでは登壇者と少人数で議論を続けることができ、Mentoring Session と呼ばれる企画では、University of British Columbia の Laks V. S. Lakshmanan 教授より、研究の方向性やマインドセットについて直接ご助言を賜ることができました。発表も含め、世界の第一線で活躍する研究者の姿を間近に見ることで、自身の研究に対する意欲を大いに掻き立てられる会議です。
次回の SIGMOD 2027 は、2027年6月13日から19日にかけて、米国カリフォルニア州ハンティントンビーチにて開催されます。データベース分野にご興味のある方は、論文投稿や現地参加をご検討されてみてはいかがでしょうか。
著者紹介:
高田 晴成(慶應義塾大学)

2.CVPR 2026 参加報告
鷄内 朋也(株式会社KDDI総合研究所)
2026年6月3日から7日にかけて、米国コロラド州デンバーにて、コンピュータビジョン・パターン認識分野のトップカンファレンスである CVPR 2026(The IEEE/CVF Conference on Computer Vision and Pattern Recognition)が開催されました。CVPR は Google Scholar Metrics の全分野ランキングで Nature に次ぐ第2位に位置する、極めて影響力の大きい国際会議です。
投稿・採択の規模は過去最大で、16,092件の投稿(前年比約24%増)に対して4,089件が採択され、採択率は約25.4%でした。参加者は1万人を超え、史上最大規模の CVPRとなりました。
今年の会場で特に大きな存在感を放っていたのは、World model と、3D/4Dreconstructionでした。World model とは、観測や行動の系列から環境がどう変化するかを予測できるように学習することで、物理法則や物体の振る舞いといった世界の仕組みを内部に獲得したモデルを指します。動画生成を行うWorld modelに加えて、動画よりも軽量な環境の内部表現を予測するWorld modelを訓練し、それをロボットや自動運転車が行動の結果を事前にシミュレーションする基盤として活用する研究も注目されていました。一方の 3D/4D reconstruction は、画像や動画からシーンの3次元形状、さらに時間軸を加えた「4D」すなわち動きを伴う形状を復元する技術です。従来はシーンごとに時間をかけて最適化する手法が主流でしたが、今年は大規模データで学習したネットワークが一度の順伝播(フィードフォワード)で即座に復元を行うアプローチが台頭し、大きな注目を集めていました。Best Paperに選出された”Efficiently Reconstructing Dynamic Scenes One D4RT at a Time”も単一の動画から動的4Dシーンの形状と運動を効率的に再構成するフィードフォワードネットワークの提案です。Best Paper Honorable Mention を受賞したMeta の”SAM 3D” は単一画像中の物体形状を3D生成する手法です。
一方で、会議が大きな盛り上がりを見せる中、課題も目につきました。米国のビザ発給の問題により、特に中国からの著者を中心に入国できない研究者が少なくなく、口頭発表の質疑応答に発表者本人が答えられない場面や、ポスターの前に発表者が不在のまま掲示だけがなされている光景が散見されました。本会議は総著者数44,011名のうち中国の研究者が23,233名を占めており、採択論文に占める中国の研究機関の存在感が年々高まっているなか、著者と直接議論できないことは参加者にとっても大きな損失であり、開催形態やビザ支援の面での今後の改善が期待されます。
次回の CVPR 2027 は2027年6月19日から26日に米国シアトルで開催予定です。私自身、今回は発表を伴わない聴講のみの参加でしたが、それでも得られるものは非常に大きいと感じました。ご興味のある方は、まずは聴講からでも現地参加を検討されてみてはいかがでしょうか。
著者紹介:
鷄内 朋也(株式会社KDDI総合研究所)
2022年慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了。博士(工学)。現在、KDDI総合研究所の研究者であり、慶應AIセンターにも所属。 Intersection ofcomputer vision and roboticsに興味あり。
3.ICWSM 2026 参加報告
津川 翔(筑波大学)
2026年5月27日から29日にかけて、ICWSM 2026(The 20th International AAAI Conference on Web and Social Media)が米国ロサンゼルスで開催されました。ICWSMは、Webとソーシャルメディアに関する国際会議ですが、近年では特に、コンピュータサイエンスと社会科学の融合領域である「計算社会科学」に特化した会議としての性格が強まっています。同じWeb分野の国際会議であるThe Web ConferenceやWSDMと比較すると、アルゴリズムや手法の提案自体よりも、Webやソーシャルメディアのデータを用いて社会現象を分析・理解する研究が多く発表されています。コンピュータサイエンス分野の国際会議としてはやや独特な位置づけにあり、計算社会科学の研究者にとってはトップ会議の一つとして認識されています。
ICWSMに馴染みのない読者のために、投稿・査読システムについても簡単に紹介します。ICWSMの投稿締切は、5月、9月、1月の年3回に設定されており、各ラウンドで採択された論文が翌年の会議で発表されます。査読結果はAccept、Revise、Rejectのいずれかであり、Reviseとなった論文は、次のラウンドで修正版を再投稿できます。再投稿後はAcceptまたはRejectの二択となります。ICWSM 2026では、初回投稿でAcceptとなった論文が約6%、Reviseとなった論文が約34%、Revise後の採択率が約75%であり、最終的な採択率は約31%でした。近年の中ではやや高い採択率であり、翌年度は再び20%台になるのではないかとの話も聞かれました。採択までの道のりは決して容易ではありませんが、Revise and Resubmitを通じて、査読者との対話や論文改善の機会が得られます。個人的には、採否が一度の査読で決まる国際会議よりも納得感があり、心理的な負担も比較的小さいと感じています。私が経験した範囲では、査読の品質もおおむね高い水準にあります。
ICWSM 2026では、3日間で186本の論文発表と3件の基調講演が行われました。参加者数は316人でした。規模としては中規模の国際会議ですが、プログラムが原則としてシングルセッションで進行するため、非常に密度が高くなっています。今年は、フルペーパーの約4割が1分間のライトニングトークとポスター発表、残りの約6割が7分間の口頭発表という形式でした。質疑応答は、約10件の発表をまとめて15分程度設ける形式が採用されました。シングルセッションには、会議全体の研究動向を把握しやすいという利点があります。一方で、短い発表を続けて聴く必要があり、参加者にとってはかなり集中力を要するプログラムでした。近年は発表時間が短縮される傾向にあり、発表形式について試行錯誤が続いているようです。
研究トピックとしては、偽・誤情報、政治的分極化、影響工作、メンタルヘルス、ヘイトスピーチなど、社会問題と深く結びついた多様なテーマが扱われていました。大規模言語モデル(LLM)は、すでに多くの研究で一般的な分析手段として利用されており、筆者は特に、LLMを用いた社会シミュレーションに関する研究に関心を持ちました。また、X(旧Twitter)のデータアクセスが制限されたことは、この分野の研究に大きな影響を与えています。しかし、今回のICWSMでは、YouTube、Reddit、Bluesky、TikTok、Telegram、WhatsApp、Wikipediaなど、多様なプラットフォームのデータを用いた研究が報告されていました。日本では必ずしも馴染みの深くないプラットフォームも含まれていますが、X以外のデータにも、取り組むべき研究課題が数多く存在することを改めて認識しました。
次回のICWSM 2027は、英国エディンバラで開催される予定です。本稿を通じて興味を持たれた方には、ぜひ論文投稿や会議参加を検討していただきたいと思います。ICWSMは依然として欧米の研究者を中心とするコミュニティであり、日本を含むアジア地域のプレゼンスは高くありません。ICWSM 2026における日本の機関からの発表は2件であり、参加者に占める日本からの参加者の割合は2.8%でした。ICWSMでは実社会の出来事や現象が研究対象となりますが、米国大統領選挙、共和党と民主党の対立、Black Lives Matterなど、米国社会を対象とする研究が充実している一方、アジアをはじめとする他地域の事象を扱う研究は限られています。計算社会科学のさらなる発展には、多様な国・地域をフィールドとする研究の蓄積が不可欠です。日本やアジアの社会現象を対象とした研究が増えることで、既存の知見がどの程度一般化できるのかを検証し、欧米中心の研究だけでは捉えにくい新たな現象を発見できる可能性もあります。関係分野の研究者の皆様にICWSMへの関心を持っていただき、今後より多くの方が投稿・参加されることを期待しています。
著者紹介:
津川 翔(筑波大学)
2012年、大阪大学大学院情報科学研究科博士後期課程修了。博士(情報科学)。現在、筑波大学システム情報系准教授。計算社会科学の研究に従事。電子情報通信学会、情報処理学会、計算社会科学会、IEEE、ACM各会員。
4.NetSci 2026 参加報告
中条 雅貴(東京大学)
2026年6月1日から5日まで、アメリカ・ボストンにおいて、ネットワーク科学分野で最大規模の国際会議であるNetSci 2026(International School & Conference on Network Science)が開催されました。NetSciは、物理学、計算機科学、生物学、社会科学、経済学、工学など、さまざまな分野における複雑ネットワークおよびネットワーク科学の研究が発表される会議です。査読はあるものの、1ページのAbstractのみで発表できるため、ネットワーク科学に関心をもつ研究者の交流や意見交換の場としても活用されています。今年は、3日間の本会議と、それに先立って開催される2日間のSchool & Satellitesという構成で行われました。
School & Satellitesでは、スクール講演と複数のサテライトセッションが開催されました。サテライトセッションは、近年のネットワーク科学における新たな試みや発展的なテーマについて、より具体的なトピックごとに議論する場として位置づけられています。たとえば、ネットワークに対する幾何学的なアプローチを扱うNetwork Geometryや、物理的な実体をもつネットワークを扱うPhysical Networksなどのセッションが開催されました。さらに今年は、公平性を扱うFairNetSciや倫理を扱うEthics in Network Science Research & Practiceなど、研究や分析結果の社会的意義について議論するセッションが開催されていた点が印象的でした。
本会議では、最大8つのセッションが並行して開催されました。基礎理論を扱うNetwork TheoryやNetwork Renormalization、計算機科学に関連するMachine Learning & AIやAlgorithms, Inference & Reconstructionに加え、Social Networks、Economic Networks、Biological Networks、Science of Scienceなど、各分野に応じた多様なセッションが設けられていました。セッション数が多く、どの発表を聞くか迷うほどでしたが、その分、統計物理や計算機科学に基づく研究から、社会・経済現象を扱う研究まで、普段は触れない幅広い発表に出会うことができました。
本年はNetSciの20周年記念ということもあり、非常に豪華な招待講演が行われました。とくに、ネットワーク科学の発展において重要な契機となったSmall-World性とScale-Free性の研究をそれぞれ代表するDuncan J. WattsとSteven Strogatz、Albert-László BarabásiとRéka Albertの2組が、それぞれ約1時間のキーノート講演を行いました。講演では、それぞれの研究がどのような発想から始まり、論文の公開に至ったのかについて、当時の状況を交えながら紹介されました。なお、これら2組の講演については、東京大学の鳥海先生が日本語での書き起こしを公開されていますので、ぜひそちらもご覧ください。
(https://note.com/torix/n/ne17a04a12d59, https://note.com/torix/n/n6b1ea6ab5b86)
私は “Effects of central node selection for network robustness against localized attacks” という研究についてポスター発表を行いました。本研究は、地震や停電のように被害が局所的な範囲から周辺へ広がる状況を想定し、どのようなノードが被害範囲の中心となると、ネットワーク全体により大きな影響が生じるのかを明らかにするものです。さまざまな分野の参加者と議論することで、今後の研究に活用できそうなアイデアを得ることができました。
NetSci 2027は、ドイツのドレスデンで開催される予定です。ネットワーク科学に少しでも関連していれば、さまざまな分野の研究を発表できる会議であり、計算機科学や物理学をはじめとして幅広い分野の発表が行われます。そのため、参加すればきっと興味深い研究に出会えると思います。ぜひ参加を検討していただければと思います。
著者紹介:
中条 雅貴(東京大学)

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